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 光を反射するということは、熱を通さないという意味でもある。 「テントにして使うと涼しいんだよね、このシート」  くじらの墜落現場に来ていた二人が、直射日光にさらされる危険性におびえていたが。  ラツィリは既に手を打っていた、なんて事実に頭を打たれたような気分だった。  精密機械の塊でもある瑠璃くじらを保護するために、と持ち込んだ素材。実際に広く使われているらしいのに、じゃあどうしてローグはそれを聞いたことがなかったのかと首を傾げる。 「お、自己スキャンは生きてる」  何やら詳しい検分の最中らしいラツィリにそれを質問するのは嫌がられそうだった。後ろでぼんやりと見ていると、くじらの内部で虹色の光が流れているのが見える。 「んー。機構自体に大きな不具合はなさそうだけどな」 「接触不良とかじゃないんか」 「どうだろ。ネットワークから弄るなら、機能を走らせるCPUにクラックファイルを読ませるとかかも」  表面の蒼色の奥から透ける虹色、それを受けて二人の身体に青色の光が映る。  なんだか深い海のイメージを受けるような。  水族館の展示とか、そんな雰囲気を思い出した。  周囲が炎天下の赤い地形でないなら、もっと強く感じ取れただろうけど。 「致命的な物理的故障は見当たらないかな? 落下したときの衝撃でいろいろ壊れるとは思うけど」 「それでも直すのは手間そうだな」  まあねー、とラツィリも否定しなかった。  ここで作業をするのかと訊けば、それは難しいと答えられる。 「公道でそんな邪魔なことしないよ。作業できる場所を見繕わないと」  思い当たる場所とか、知らないかな? ラツィリが振り返って、ローグに尋ねる。  それでも半分横を向いたくらいで、こちらに顔を向けてこない。  変なこだわりでもあるのかとは思ったが、触れないで訊かれたことを考える。 「長い時間借りられるような作業場なんて聞いたことないし、くじらを置けるような広さの施設も知らないかな。……個人レベルでそういう場所を持ってるなら、知る由もないか」  そっかーと残念そうにしていたラツィリ。  そうなると人目につかない街の外で作業、とはなるけど。 「それはそれで危険もあるからさ」 「ここら辺、なんでか大きめの蠍が出るんだよな。熊とかでないから、喰われることはなくとも中毒で運ばれる人は何人かいるよ」 「うえー。素揚げにして食ってやりたいな」  すげえ発想、とローグは本気で驚いた。やりかねない国とか文明はありそうだけど、彼らの生活圏からは大きく離れている。幸か不幸かは何とも言えない。 「フライヤーでも買ってくる?」 「今はいいかな。優先順位」  提案を退けられ、じゃあと次の提案を投げてみる。  というより、思い出したこともあったのだ。 「俺の爺さんの工房があったはずだ、って思って」
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