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「……そんなに不思議そうな顔されてもな」  ラツィリが立っている。  半年前に居なくなった時と変わらない造形の筈なのに、服装が違うだけで印象が全く違っていた。 「あ、いや―――反応に困っただけ。元気そうだね」 「うん、体調は良い方だよ。だからこうやってここに来たわけだし」 「で、どうしたんだ、その服。デスクワークの部署にでも回された?」 「んー、まあそんな感じかな。兄貴の手伝いとかもやるようになったからね……面倒だけど」  そうか、と応じながら。  改めてスーツ姿の彼女をじっと観察する。 (着慣れてないのがよくわかるなあ)  形が合っていないというか、馴染んでいないというか。 「上がっていくのか? じゃあ、」 「いやいや、今日はいいよ。むしろ私が君を迎えに来たようなものだから」  あん? と反射的に首を傾げて、振り返りかけていた体躯が半端に捻ったままの姿勢になる。その一瞬の隙に、ラツィリがローグの体幹を締めるように両腕を巻き付けて、裏投げの形で引っこ抜いた。  綺麗な形ではなかったが、地面に叩きつけられ。  ぬわー、なんて間の抜けた叫び声が響いていた。 「何するんだ、いきなり」 「向こう見てごらん」  え? なんて言われるままに視線を向けると、なんだか大きい青色の塊が近寄ってきていた。以前にさんざん見たはずの瑠璃くじらと似たような色合いで、しかし今回は鳥というか舟というか、いや何これと混乱から訊いた。 「綿晴らし」 「八咫烏みたいに言うんじゃないよ」  語呂だけじゃねえかとなかなかに意味が分からない。 「今度は晴天を作る機体が要るようになってきてさ、海流の近くだと洪水になりかねない」  せっかくだからと白重綿を参考に作ったらしい。何が「せっかく」なのかは知らないが。  どうせならとタクシー代わりに使えるし、ここまで飛んできたのだという。 「なに、そういう商売でも始めるのか」 「できることはやっておきたいから」  …………。  すくなくとも、船の外装はきっちり作っておかないと運用は難しいんじゃないかなあとは思った。  外観もなんだか七福神(神様パーティ)でも運びそうなデザインになっているし。  技術の方向性って一体、とも思った。 「サイバーパンクにはなれねえな」 「生物を模した方が効率がいいって知ってるから、そっち優先しすぎた結果だよ」  柔らかくていいと思うけどな、とラツィリが言いながらローグをキャビンに押し込んだ。  そして隣に当たり前のように座っている。 「ここからどこに行くんだ? 別に帰ってこないわけでもないんだろ?」 「まあね。私がここに居付く予定もあるから」 「ああ、そうなんだ」 「でもまあ、今日はこれからうちの本社に向かうけど」 「どうして?」 「兄貴に話を通しておいたから、これから入社試験でもどうかな」 「遊びに行くノリでやるこっちゃねえよな」 「帰りたいなら降りていいよ」 「もう結構な高さに居て、それはねえよ。脅しじゃないか」  せめてもう少し準備期間が欲しかった、と抗議したが無視された。 「いいよ、どうせ私と同じ場所に配属されるんだから」 「内部の話を漏らすな」 「知ったからには逃がさないよ」 「この強引さが全然変わんねえ……」  半年間会わないだけでは、対して変化も感じられなかった。  むしろ安心感まであるくらいだ。 「ってーか、姉貴がいろいろちょっかい掛けてきてたでしょ、あれも対処しとかないとなーって思ったからね」 「……、なんというか、いろいろ溜め込んでたものが破裂した感じだったな」 「全部抜けきってふにゃふにゃになってるのは予想外だったよ」  反動で軽い退行を起こしてたのは驚いたが、あれもすぐに戻るようなものだとは思う。そんな予測をしているラツィリの表情は、なんだか悄然としていた。 「渡したくないし」 「誰が所有物か」
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