第19話:命に替えても

7/7
前へ
/139ページ
次へ
「それは、マリア様と婚約したのも、異物混入騒動も……魔法学園にいた頃も、ですか?」 「あぁ、今となってはそうだな。本当に私は情けない男だ……そういうことでしか、君の気を引けないと思っていたのだから」 「そんな……」  クリス様がそんな風に思っていたなんて……。カイ様と出会う前にその本音を聞いていたら、私達の関係ももう少し変わっていたのだろうか? でも、それはもう実現しなかった過去のことだ。 「もし、カイ様が目覚めなかったとしたら……私はカイ様以上に、誰かを好きになることは難しそうです。なので、その時はカイ様を想いながらひっそりと生きていきます」 「……そうか、やはり駄目か」  そこまで本気では無かったのか、クリス様は特に驚くような素振りも見せない。 「エリアナが魔獣の王から攻撃を受けそうになった時、私も走り出したんだが……カイ殿の速さには驚いた。自分の命を差し出すことに、迷いがなかったからな。あれでは私も負けだ」 「そう感じられたのですね……」  カイ様が目の前に盾となってくれたことを思い出し、目頭に熱いものが込み上げてくる。溢れ出そうな感情を、私は必死に堰き止めた。 「君の気持ちもよく分かった。ただ、もしマリン帝国に嫁いだとしても、定期的にキアラ王国には浄化に来てほしい。  いくらサタンが弱体化して影響が少ないとはいえ、魔獣が消滅することは無いからな。あと奴がどれくらいで力を取り戻すかも未知数だ」 「えぇ、もちろんです。母国のためですから」 「ありがとう、エリアナ」  クリス様と私は、お互い穏やかな気持ちで話せたと思う。そして、私はカイ様の様子を見に応接室を後にしたーー。 ***
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

835人が本棚に入れています
本棚に追加