2人が本棚に入れています
本棚に追加
いったい誰が汐見さんの送別会をもんじゃ焼き屋でやろうと言い出したんだろう。とりあえず本人じゃないな。
会社から遠いのに「もんじゃといえば」といわれるまま、退社後にわざわざ月島まで行った帰り、腹ごなしに勝鬨橋を渡る私は汐見さんの丸い背中にそう確信した。
時刻は二十時過ぎ、鍵盤みたいにずらりともんじゃ屋ばかりが並ぶ通りで、駅はこっちです、えっ、二軒目?すいません、すぐ探します、ってあたふたする幹事の枡田くんを尻目に「夫が迎えに来てるのでここで失礼します」って餞別の花束を抱えた汐見さんが即座に帰ってから十数分が経っている。
うちの課の慣習で、まだ大した仕事ができない分、こういうのは頑張ってねと幹事を任された新入社員の枡田くんにとって、この送別会はかなりハードだったろう。
そもそも普通は七月の暑気払いが幹事デビューなのに今は四月の終わりだし。
主役の汐見さんが帰るのに二次会はやるの?って当然のハテナ顔の枡田くんに「あんまり遠くないとこがいい」「もんじゃはもう飽きた」と原さんたちがマシンガンのようにリクエストを浴びせ、「少々お待ちください」って見渡す限りもんじゃ屋だらけの月島で一生懸命スマホをいじる枡田くんに、「明日早いんでお先に失礼します」なんて私の言葉はたぶん届きさえしなかっただろう。別にいいけど。
最初のコメントを投稿しよう!