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にゃーん
不意にあの日の化け猫の声が甦る。
しょうがにゃい、しょうがにゃい。また傍観者でもしょうがにゃい。だって私の中は真っ黒だから。いつも通りやり過ごした方がいい。そっちの方が楽だからって弱者気取りのバカでいればいいんだ。
でもあの猫はそんな私を見てる気がする。あの日、私から出たのはピニャコラーダじゃなく化け猫が甘露と呼ぶ黒い何かだったとして、私がバカである限りあれがずっと自分の中にあるとして、あの怖くて苦しい夜へ再び引き摺り込もうとしている気がする。
「あの、」
気がつけば、私は枡田くんと原さんの間に割って入っていた。でもどうしよう。この後どうすればいい?
まずい。原さんがすごい怪訝な顔をしてる。
ここで選択を間違えたらターゲットは私に変わるかもしれない。それは嫌だ。この会社で穏便に働きたいなら原さんを敵に回すべきじゃない。でもこういうのも、もう嫌な気がする。
この世の終わりみたいな猫の口。瑠奈の優しい手。川を踊る汐見さんの花束。そういったものたちが走馬灯のように頭を駆け巡り、激しいスピードで私を巻き込んでいく。
「ちょっといいですか。枡田くんが持ってるマニュアルですけど」
決心より前に言葉は溢れだす。私の中の汚いものを一掃するみたいに、リズムよく、よどみなく。瞬時に顔色を変えた原さんが「あ、アンタそっちね」って感じで睨みつけてくる。
怖。あーあ、やらかした。やらかしたけど、しょうがにゃい。
この流れはあがり目だろうか。さがり目だろうか。それとも、くるっと回ってにゃんこの目?いや、にゃんこの目ってなんだよ。
まあ、いいか。こうなったら後は野となれ山となれ。くるっと回ってみようじゃないの。
「そのマニュアルって」
鼻から大きく息を吸って、私は一気に喋り出した。
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