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「にゃるほど、これは甘露やも。お客様、鼻が痛むのですね。吐露に傷はつきものなのに、ちゃんとクリームを塗らないからですよ。髪もばさばさで、少々のどごしは気になるが、まあよいでしょう」
猫がなんか喋ってる。タブレットにもずらずらたくさん文字が並ぶけど、読むことができない。急に鼻の痛みが強まってそれどころじゃないのだ。
やばい。すごく気持ち悪い。出る。ピニャコラーダ、出ちゃう。
顔面蒼白になった私の耳を、猫の話がすべりぬけていく。機械音のままなのに、まるで言葉自体が踊っているかのようにリズムよく、よどみがない。
「さあさあ、お客様、その黒いものをよこしなさい。汚い自分の思い出を自己憐憫でこするばかなあなた。大人になったところで中身は小物のままのあなた。結局なにも動きはしないくせに、そうやって反省できる自分を許したいのでしょう。イジメてない分まだましと思いたいのでしょう。まさに目くそ鼻くそ。さあさあ、熟成されたばかをよこしなさい。しょうがにゃい、しょうがにゃい。強く生きられる者ばかりじゃねえ。弱い者は弱さを謝りながら生きるしかねえ。開き直って生きるしかねえ。しょうがにゃい、しょうがにゃい。おかげでこちらはご馳走だ。あなた、ばかって甘いんですよ。人間の愚は黒々とにごる甘露なり」
黒猫の青い目がくるっと回った。縦になったアーモンドアイの真ん中で瞳孔がぎゅっと収斂してる。
何これ。何が起こっているんだろう。
ばかは甘い?甘いって、味が?それってつまり。
注文の多い料理店
それが思い浮かんだ頃はもう時すでに遅し、私の目の前にはあばら骨のような線がびっしり並んだ猫の大口が迫っていた。
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