初日から色々ダメなんですけど

8/27
前へ
/105ページ
次へ
   寄り道も終えて帰宅したら、手を洗ってから食材を冷蔵庫に仕舞い、調理にかかる。包丁を握る時に、一瞬、右手の痛みを心配したが今日は落ち着いていた。  この痛みに気付いたのは、2ヶ月程前だ。最初は時々だった。でも、あれよあれよと言う間に日は増えて毎日になった。それでも痛みを感じるのは仕事後だし、寝て起きたら治るのだから良しとしている。それに、毎日が激痛と言うわけでもない。何となく手が重たいと言うだけの日もある。  医者に行くことも考えたけど、それで仕事を続けられないと言われたら、私はどうしたらいい?と思うと、足が向かなかった。  「なかなかやるじゃん。」 ひじきも千切り大根も、家庭料理としては合格点の味に仕上がり、野菜も必要な分は湯がいて味をつけた。残りは切ったり、湯がいたりするだけしてジッパーに入れて冷凍庫に並べて仕舞った。 そうして片付けも終えて、夕暮れが近づく頃、スマホが鳴った。メッセージではなく電話だ。 相手は[和田 茉莉(ワダ マツリ)]。専門学校時代の友人で今も親しくしている一人だ。お互い独身で、卒業後も最初に勤めた美容室で辞めずに働いている点が同じで、愚痴を言いたい時、相談したいことがある時は、よく会って飲みに行く仲だ。 「もしもし?」 「栞菜ー!!もう無理!死ぬ!」 「またぁ?」 茉莉の「もう無理!死ぬ!」は口癖だ。 「あいつ浮気してたのよ!!絶対許さん!!羽交締めする!!」 羽交締めって。ちなみにあいつと言うのは彼氏の涼介(リョウスケ)さんのことだ。  茉莉は独身だけど、2年近く付き合っている彼氏がいる。その彼氏、涼介さんも私たちと同じ同業者。女の美容師はあまりないけど、男の美容師は客に言い寄られることが時々ある。茉莉の彼氏、涼介さんも長身のワイルド系イケメンで、彼に髪を切ってもらっているうちに、恋しちゃいましたなんて言う客がいるのだ。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加