初日から色々ダメなんですけど

11/27
前へ
/105ページ
次へ
「あんた、誰かいるの?」 「えー?」 「靴!この靴、男物でしょ!」 「あー……葵くん。」 「葵くん!?」 あれ?茉莉に言ってなかったっけ?ま、いっか。  玄関での騒ぎが聞こえないはずもなく、心配なって納戸から出てきた青年に、茉莉は一瞬、時が止まったと思ったらしい(と、言うのを後日、茉莉から聞いた)。 「こ、こんばんは。私、栞菜の友だちの和田茉莉です。」 「こんばんは。」 「えーと、葵くん?」 「はい、葵です。」 この時、詳しいことを言わなかったのは、茉莉が何も知らないと察し、高校生の自分がここにいることを知られてほしくないと言う、私の気持ちを慮ったからだろう。 「栞菜さん、預かります。ありがとうございました。」 「ごめんね、ありがとう。ほら、栞菜行きな。」 「うん。」 私は適当にパンプスを脱ぎ捨てて、記憶のないまま葵くんに抱き付いた。 「ただいまー。」 「……おか……えり……。」 「葵くん、ごめんね。この子、かなり飲んでるから、色々と大変だと思うけど。」 「えーと……大変……?」 「ほら、いつもの。すぐ引っ付いてくるし、笑い上戸になるし、同じ話ばかりするやつ。」 「……。」 「何すか、それ。」と言う言葉を言いたかっただろう葵くんは、それを唾と一緒に飲み込んで、もう一度「分かりました。ありがとうございました。」とだけ言った。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加