いつも行くコンビニ

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 美容室と私の住む賃貸物件の間にコンビニが1軒ある。緑色を基調としたコンビニ。私はいつもそのコンビニに寄って、晩ご飯とお酒とちょっとしたお菓子を買う。それが日課。別に楽しみとかではない。帰って家事なんてしたくない。それだけ。  家事能力ゼロではないと思うのだけど、忙しさに甘えて部屋もそれなりにしか片付けていないし、冷蔵庫の中もお酒と水とバナナとヨーグルトとハムぐらいしかない。そのままでも食べられるやつ。  コンビニに入ると冷房が効いている。やはりみんな今日は暑いと思っていたみたいだ。相手に気付かれないようにレジの方に視線をやると、一人の男の子が視線の定まらない目をして突っ立っている。  週の半分以上、この時間、20時頃にレジにいる子だ。銀色のマッシュヘア。肌はその年齢では不健康にも感じるぐらい白い。切れ長の目と小振りの鼻に薄い唇。店のドアが開くと、ハスキーな声で「いらっしゃいませー。」と言う。全然、いらっしゃいなんて思っていない声色で。  基本毎日、この時間帯にここに通い、ビールか酎ハイ2缶と晩ご飯やアイスクリーム、スナック菓子やらを買って帰る私のことを彼は覚えているのだろうか?時折、そんなことを思うが、思うだけで、恥じらいを感じてこの暮らしを変えることもない。私はカゴにいつも通り欲しい物を放り込み、彼の元に持っていく。 「いらっしゃいませー。」 彼はハスキーな声でまたそう言う。言ってすぐ商品をレジに通していく。その指も細くて白くて綺麗。レジを通された商品を順次、自分のエコバッグに入れていたが、ネイルの剥げかけた親指に気付いて、思わず掌の中に入れて、握り締めてしまう。  彼が全ての商品をレジに通したら、レジから「お支払い方法をお選びください。」と言われる。迷わずバーコード決済を押して、彼にスマホを差し出す。彼も迷わず私のスマホのバーコードを読み取る。 「ありがとうございました。」 レジがレシートを吐き出すタイミングで彼は「ありがとうございました。」と言う。いつもそうだ。だから、私もいつも通り右手で商品を入れたエコバッグを取ろうとしたら、鋭い痛みを感じた。 感じて、落とした。 エコバッグを床に。 そして散らばった。 エコバッグから飛び出した缶チューハイとパスタとアイスクリーム。パスタはかろうじて蓋は開いていない。 「大丈夫ですか?」 彼は意外にも素早くレジから出てきて、私と一緒に飛び出した物を拾う。 「あの、すみません。」 目の前に彼の顔。韓国のアイドルみたいな顔をしている。一方の私はメイクも仕事後でどろどろだ。彼と比較して逃げ出したくなる。 「ケガ、していませんか?」 「平気です。あ、ありがとうございました!」 奪い取るようにエコバッグを引き取り、彼にお礼を言って店を飛び出した。
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