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「素敵!さすが羽山さん!」
「ありがとうございます。私もこれはって思いました。すごく似合ってるって。」
「私、ずっと美容室迷子だったんですよー。どこの美容室に行ってもちょっと満足できないって言うか。友だちや彼氏には似合うとは言われるんですけどね。でも、羽山さんに出会ってからは、もう絶対にずっとここでお世話になりたいって気持ちになれました。」
「そんなふうに言ってもらえて嬉しいです。」
この仕事を続けてきて良かったと思える瞬間だ。
「だから、これからもよろしくお願いします。」
笑顔を見せて、椅子から降りる桑原さんを受付まで導く。この美容室ではお支払い、お見送りまでの一連の流れを指名を受けた人が担当することになっている。お見送りの時に「また来てくださいね。」と言う言葉は忘れない。
その後もいつも通りカットをして、カラーをして、パーマをあてて……お客様に笑顔を作って対応していく。昼ご飯のタイミングを逃し、休憩に入れたのは14時半を過ぎた時だった。
「いたっ……」
スタッフ専用の休憩室で右手に鈍い痛みを感じる。仕事中には初めてのことだ。
「大した数をこなしていないのに。」
土日祝と比較したら、平日の来客は三分の一くらい少ない。
「氷あったかな……」
休憩室は、6人掛けのテーブルが中央に置かれ、壁に背中が付くようにして、冷蔵庫と電子レンジやポットやスタッフのコップが仕舞えるキッチンボードが置いてある。
冷凍庫を開けて、保冷剤を発見して手首に乗せる。幾分、痛みは楽になる。悪化しているのだろうか。それすらよく分からない。
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