初日から色々ダメなんですけど

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 仕事も後半に入ったら、痛みはもう感じなくなっていた。自分を指名してくれたお客様のヘアチェンジを行い、指名がない時間は、新規のお客様の担当をしたり、他の人のフォローに回ったりして、その日一日を終えた。 あぁ疲れた。 空を仰いだら、朝は太陽の光が眩しいくらいだったのに、もう半月が浮かんでいる。街灯や近くのお店から放たれる光、看板のネオンが照らす道を歩いて家に向かう。 朝に感じていた頭痛はもう消えていた。薬が効いたこともあるが、忙しさに頭痛が負けたのだと思う。 いつものコンビニの前を通り過ぎる時に足が止まる。お酒とおつまみを買おうかと思い、いやいやと思い直す。葵くんに「昨日、あんなに飲んだくせに、また飲むんかい。」と思われるのも、いい大人として情けない気がする。  そんなことをコンビニの前で考えていたら、葵くんがコンビニの制服姿で店から出てきた。出てきて、朝の時みたいに目が合った。 「……あ、栞菜さん。」 「……!」 嘘!?ここでバッタリとかある!? そう思った瞬間、挨拶なんてできるはずもなく、あろうことか私は葵くんに背を向けて、家に向かって一目散に走っていた。 何やってんのって自分に思っている。こんなことしたらますます気まずくなる一方だって。でも、朝の「信じられない」を忘れたわけじゃない。あれは結構私の中でクリティカルヒットだったのだ。
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