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「葵くんが朝、信じられないって言ったから!」
「ん?」
それがどうしたって顔をする。
「昨日のことを全く覚えていない私に呆れたんでしょ!そして、呆れて嫌になったから信じられない言ったんでしょ!」
「何でそうなるかな。」
葵くんは困った顔をして横髪を手でくしゃっと掴んだ。
「本当に昨日のこと覚えていないんですね。」
「……。」
「再現しましょうか?昨日と同じこと。」
えっ?再現?
すぐにぐらっと視界が揺れる。腕を引っ張られたと思ったら、体が傾いて葵くんの胸に体が倒れ込み、背中に彼の腕が回る。
「栞菜さん、昨日、こうやって俺に抱きついてきたんですよ。一度だけじゃなく二度も。」
「し、知らない。そんなこと。」
葵くんの匂いが鼻をくすぐる。体温も心臓の鼓動もすぐ側にあって、この距離に私の体は火照りを帯びる。
「でしょうね。引き離そうとしたら嫌だってごねたことだって覚えてないでしょ?」
「知らないって。」
「だから信じられないって言ったんですよ。こっちは栞菜さんの香水とお酒の匂いに、あぁ大人の女性なんだなって思って、感情を多少は揺さぶられたのに。それを朝になって全く覚えていないなんて。」
「だって……」
葵くんが私なんかに感情を揺さぶられたって言うの?そんなこと思ってもみなかった。
でも、今、この状態に感情を揺さぶられているのは、確実に私の方だ。
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