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「葵くん……分かったから、そろそろ離して……」
じゃないと私、彼の匂いにこのまま侵されてしまいそう。
「嫌です。」
「なっ……」
「昨日の俺と同じ気持ち、味わってください。」
うぅっ……
後ろ髪に彼の指が触れるのを感じる。感じて、私の心臓はコンコンコンと同じリズムを刻み始める。少し速いテンポで。
どうしよう……我慢できない……
腕を葵くんの背中に回して、彼の胸に顔を埋めていた。
この匂いずるい。すごく心地いいんだもん。仕事の疲れが消えるくらい落ち着くんだもん。
「俺の気持ち、少しは分かってくれました?」
耳元で葵くんがクスリと笑う。
「栞菜さん、ご飯まだでしょ?」
「うん。」
「一緒に食べましょう。俺も今からなんです。」
彼の、手が緩んだ時、私は次はある?って思っていた。また抱きしめてくれる?って。
でも、もちろんそんなこと彼に言えるはずがない。
だって彼は昨日のことを再現したに過ぎないんだから。私を抱きしめたくて抱きしめたわけではないのだから。
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