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バックヤードには長机とパイプ椅子が置いてあって、彼は私をそこに座らせた。
「氷、持ってきます。右手、そんなに痛むなら冷やした方がいいでしょ。」
昨日と今日で、私の右手に些かの不自由があることに彼は気付いている。
「家に帰って、お風呂でマッサージをして湿布をしたら次の日にはよくなっているから。」
翌日一日、仕事はできるくらいに。
「でも、応急処置は大事ですよ。」
彼はそう言ってバックヤードにある冷凍庫を開けて、商品と思われる袋に入った氷を開けると、今度は冷凍庫の隣の棚からレジ袋を一枚取り出して氷を詰めて、私の手首にのせた。
「冷たくないですか?」
「平気……本当にごめんなさい。昨日といい、今日といい。」
「昨日?」
彼がキョトンとした顔をする。もしかして覚えていないのだろうか?
が、少しの間を置いて、
「……あぁ、あんなの大したことではないんで。」
と答えてくる。
普通に覚えてるんかいって突っ込みたくなる。
「それより、お店は大丈夫?さっきのやつらに嫌がらせとかされない?」
SNSで店の酷評書かれたりとか。
「大丈夫です。警察の顔を見た瞬間に震え上がっていたので、そう言うタイプはもうこの店には関わらないって思っていますよ。」
それなら良かった。
「……氷、ありがとうね。帰るわ。」
店は大丈夫と聞いて安心したし、長居して迷惑をかけるわけにもいかない。
「今日は何も買わないんですか?」
「えっ?」
「お酒とかお菓子とか。」
「なっ、なっ、何でそれを!?」
「そりゃ毎日来て、同じような物を買って帰っているのを見たら、さすがに覚えます。」
うっ……
なんか今更だけど、面と向かって言われると、やはり恥ずかしい。どこかに穴はないだろうか。隠れられるぐらいの。
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