いつも行くコンビニ

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 結局、晩ご飯におにぎりと缶ビールを一缶買って、店を出た。もう約束の20時半になる。山野の言っていた彼が家の前に来ているかもしれない。 ところが5階建ての賃貸物件の前には誰の姿もなかった。まだ着いていないのだろうかと思っていたら、山野からのメッセージがスマホに入った。 [すみません。遅れるって言っています。] と。私は[分かった。着いたらインターホンを鳴らして]と返してスマホをショルダーバッグに仕舞って、賃貸のオートロックを外して先に上がる。 5階建ての賃貸の4階に住んでいる。ちょうど上から降りてきたエレベーターに乗り込んで4のボタンを押す。 名前ぐらい聞いておいても良かったかも。急に一緒に暮らすことになったのに、私は山野から彼の情報を何も聞きださなかった。人のお金を持ち出していなくなるとか、女を勝手に部屋に連れ込むとか、そう言うことはしないやつだから、信用してくれていいとだけは山野が強く言っていたから、それさえ分かれば後のことは、追々知っていけばいいと思ったのだ。 それに、多分、私はこの振って沸いた話を断る気が最初からなかったように思う。 特に理由はない。 ただ私が断ったらその子はどこにも行けないんじゃないかなと思ったから。 そしてそれは自分も。 どこにも行けない。毎日、同じ場所をぐるぐると回っている感覚。随分と昔に暗い海の底に沈んで、もう浮上の仕方も忘れてしまった自分がいる。
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