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そんなことを考えている間に、宮園さんは自転車を置いて小さくあくびをしながら昇降口の方に行ってしまった。
(しまった話しかけるチャンスを逃してしまった・・・・)
僕も後を追うように自転車を置いて昇降口に向かう。校舎の桜は満開で新たな春を祝福しているようだった。
「だああ、初日から授業授業、きついって」
隣の席で祐樹が泣き言を言っているのを尻目に僕は淡々と帰り支度を進める。
「それにしても鮎川以外の明に宮園さんまで同じクラスとはな」
それは、僕も驚いた偶然だ。意図的に上位者で固めてるのかと思ったけど、三位の鮎川が別のクラスだったので本当に偶然なんだろう。
「なあ祐樹、宮園さんってどんな人なんだ?」
祐樹は中等部の時、宮園さんと同じクラスだった。
「宮園さんか、常に眠たげだなおっとりしてるっていうか」
「休み時間とか勉強しないのか? 授業はどんな風に受けてる?」
僕が立て続けに質問すると祐樹はにやにやとして言った。
「なんだ、明もやっぱり宮園さんが気になるのか」
「別にそんなんじゃ、まあ、いいからどんな感じなんだよ」
「休み時間は寝てる、授業中も寝てるかうとうとしてるな」
それは僕の想像する宮園さんとはかけ離れた姿だった。本当に勉強してないのか。
「正直あれで明を押さえて一位張り続けてるのは凄いよな。頭の構造が違うのかもね」
そこまで話すと部活見学に行ってくると言って祐樹は教室を出て行った。夕暮れの教室で気が付けば僕以外の生徒は皆居なくなっていた。僕も早々に途中だった帰り支度を終わらせ昇降口に向かった。
──不味い忘れ物した。昇降口で靴を替えている最中に今日の課題用紙を忘れたことに気が付いた。
(はあ、面倒だなこういうのは)
僕はそんなことを思いながら自分のうっかりに溜め息をつきつつ、教室に引き返す。外では運動部の掛け声が聞こえる。中等部の方からは吹奏楽の演奏がここまで届いていた。
教室の扉を開けると前の席に眠そうな顔をした宮園さんがカバンに課題用紙を入れていた。僕はチャンスとばかりに近づいて話しかける。
「宮園さんも課題用紙忘れたの?」
宮園さんは僕の方に眠そうな目を向けてくる。
「えっと、君は誰?」
「日野明っていうんだけど・・・・」
ああ、と宮園さんは何かを思い出したように言った。
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