プロローグ

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高等部進学試験の結果を自室の勉強机の上に広げて、日野明は溜め息をつく。結果は進学可能と書かれていた。うちの学校は中高一貫校だけど、エスカレーターのように進学することは出来ない。中等部の最後に進学認定試験がありその結果によって高等部に進めるかが決まる。 進学可能なら結果はオーライ溜め息をつく理由なんてないじゃないか、この試験はそれなりに難関で通らないなんてことも珍しいことじゃない。そう言い聞かせて心を落ち着かせようとしていた。 だけど、その下の試験の得点順位を見て気持ちは落ち着くどころか、より騒がしくなる。二位日野明の上に書かれている女子生徒の名前と順位、一位宮園穂香。 (なんでいつも僕は二位なんだ・・・・) 宮園穂香、ショートの黒髪の女子で容姿端麗でありクラスの男子の憧れの的だ。そして事前に勉強は一切せず授業のみで全国模試、校内模試一位常連も化け物でもある。 しかし、僕はそんなのは噂と本人のかっこつけで本当は陰でコソコソ勉強しているに違いないと思っている。というかそうであってほしい。対する僕はそんな天才に生来の努力癖で戦ってきた。だからこそ中学最後の試験でまた負けてしまったのが悔しいのだ。 僕は目の前の紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てようとしたけど、部屋の前での母の呼びかけで捨てるまではいかなかった。 「明、ご飯出来たわよ試験の結果も見せに来なさい」 僕はもう一回溜め息をついて母に返事をする。 「分かったよ、今行くから」 「ちなみに今日の夕飯はなに?」 「明の好きなハンバーグよ、冷める前に早く来なさいね」 ハンバーグと聞いてイライラとした気持ちは少し落ち着いた。僕も単純な人間だ。 ──二階の自室からリビングに行くと、母はテレビを見ながら先にハンバーグを食べていた。うちは母子家庭なので父はいない。僕がリビングに来たのに気付くと笑顔で手招きした。 「来たわね、テストどうだった?」 「母さん笑顔で真っ先に聞くのがそれは微妙だよ」 「大事なことじゃない、もったいぶらないで教えなさいよ」 僕は母の向かいの席に座る。ハンバーグのいい香りがする煙が僕の嗅覚を幸せにした。早く食べたいのを我慢して僕はくしゃくしゃのテスト結果を母に渡す。 「なんでこんなにくしゃくしゃなのもしかして悪かった?」 僕はハンバーグを一口食べて言った。 「良いから見れば分かるでしょ」 そうして、母はしばらく紙を見てこちらに笑顔を見せる。 「良かったじゃない、進学可能でそれに高順位だし」 「全然良くない、また負けたんだ」
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