プロローグ

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「さて、勇者よ、なぜ私を倒そうとするのだ?」  クリスが聞くと、少年はクリスを睨み付けた。 「お前が世界の平穏を乱そうとするからだ!」  そう言われても、クリスには全く心当たりがない。 「具体的には?」 「北の国では日照りが続いて人々が苦しんでいる! 東の国では魔物の盗賊団が人々を襲ったそうだ! お前のしわざだろ!」  クリスは現在、細かな意匠を凝らした黒い仮面をかぶっている。そのため、呆れた表情を見せずに済んだ。 (何言っているんだ、こいつは……)  クリスは日照りを起こしたことはない。  クリスの魔力なら可能かもしれないが、起こそうと思ったことすらない。  それに国外の、それも遠くの魔物について言われても困る。  他にも勇者はいろいろいい募ったが、どれもクリスやクリスの国に関係のないことばかりだった。  かろうじて関係ありそうなのは国境近くで魔物が出たという話だが、本当に出ただけで被害も何もなかったらしい。 (またか……) 「言いたいことはそれだけか?」  苛立ちを抑えながら聞くが、勇者は興奮で息を切らして何も言わなかった。 「言っておくが、私を倒すことで解決するものはひとつもない」 「嘘をつくな!」  別にクリスは嘘をついていない。  クリスが王となってから200年ほど経つが、今まで来た勇者の訴えのなかに、クリスを倒すことで解決するものはなかった。  もう話しても無駄だと思ったクリスは側近にあるものを持って来させる。 「これをやる」  そう言って勇者の目の前に出したのは黒い髪の束だった。  勇者は不審そうに目を眇めて首を傾げる。 「なんだ、これ?」 「私の髪だ。お前たち人間は勝った証しとして相手の体の一部を持っていくと聞く」  意味がわかっていない勇者にクリス続けた。 「これで私を倒したことにしろと言っている」 「ふざけるな!」 「言っておくが」  もはや苛立ちを隠さず、クリスは仮面から覗く金色の目で勇者を睨み付ける。 「私は人間と争うつもりはないし、お前たちに倒されるつもりはない。  だが、お前たちを殺すつもりもないからおとなしく帰れ」  勇者たちのいる地面が光る。 「国の外まで送ってやる。もう、二度と来るな」  顔を真っ赤にした勇者が何か言おうとするが、クリスは構わず転移魔法を発動させた。
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