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側近の言葉にクリスはギクッと固まる。
側近はため息をついた。
「勇者と戦う時、手を抜くとしつこさが増して厄介だから死なない程度に全力で、と言われているでしょう? 何やってんですか」
「……仕事が溜まっているから早く終わらせたかっただけだよ」
時期的に税率や補助金などを決めるときだったのである。何の生産性もない勇者の相手をするのがもったいない。
「それで襲撃回数が増えたら元も子もないでしょう」
「うー」
クリスは頭を抱えて唸る。
1回で諦める勇者の方がまれで、大抵の勇者が何度も襲撃に来るのだった。
「……次は気を付ける」
「そうしてください」
どっちが主従かわからなかったが、幼少の頃から面倒を見てもらっているので、クリスはこの側近に頭が上がらないところがあった。
「そういえば、新しい菓子屋ができたらしいね」
このままだとさらに説教が続きそうなので、クリスは話題を変える。
「ライカがおいしかったって言ってた。次の休みに行こう」
ライカも昔からお世話になっている側近の1人だ。クリスと同じで甘い物が好きなエルフの女性である。
「そうですね。では、休みが取れるように仕事をしましょう」
そう言って、側近は魔法でテーブルを引き寄せ、その上にドカッと大量の書類を置いた。
仕事は嫌いではないクリスも目の前の書類の山を目にすると、逃げたくなってくる。
(あー、たまにはどこか遠くへ行きたいな)
その一瞬だけよぎった考えが思わぬ形で叶えられると、この時、クリスは全く予想していなかったのだった。
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