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プロローグ
ヒオン国王城の玉座の間。
玉座に行儀悪く肘をつきながら、クリスは書類に目を通していた。
金の装飾がはいった黒い上下に黒いマント、黒い仮面を被っているその姿は、絵本に出てくる悪役の親玉のようである。
それだけでなく、黒い艶やかな髪の間から2本の捻くれた角が生えていて、彼が人間でないことを主張していた。
クリスは書類を読みながら、時折チラチラと扉の方を気にしている。
それはまるで誰かが来るの待っているようだった。
手に持っていた書類の半分以上を確認し終わった時、廊下の方がざわざわと騒がしくなる。
(来たか……)
クリスは億劫そうに息をつくと、手に持っていた書類を近くにいた側近に渡す。
すると同時に、広間の大きな扉がバーンと乱暴に開かれた。
「どこだ、魔王!」
そう大声で叫びながら勢いよく入って来たのは、人間や獣人でいうと十代後半くらいの栗色の髪で青い瞳の少年である。若干目付きが悪いが、精悍で整った顔立ちをしていた。
「ここにいる」
内心、面倒臭いと思いつつ、クリスは返事をする。
少年は鋭くクリスを睨んだ。
その後から、少年の仲間だろうか、バタバタと4人の人間が広間に入って来る。
「さて、勇者よ、何の用で参った?」
少年と、遅れて来た4人の人間にクリスは問うた。
「お前を倒すために来た!」
少年はクリスから目線を外さずに、手にしている聖剣を構える。
「いや、そういうことを聞きたいんじゃない」と思うクリスをよそに、人間たちはそれぞれの武器を構えて臨戦体勢にはいった。
ため息をつきたいのを堪えて渋々椅子から立ち上がると、勇者はクリスに向かって走りだす。
「うぉー!」
雄叫びを上げながら勇ましく魔王に斬りかかろうとした少年が、突然、その勢いのまま、大理石の床に衝突した。
「うご!?」
まともに顔面をぶつけたらしく、情けない声を出す勇者に、クリスは容赦なく、先ほど足を引っ掛けたつる草を魔法で操って身動きの取れないようぐるぐる巻きにする。同じように勇者が転んだことで隙ができた4人の仲間も素早くぐるぐる巻きにした。
――こうして、勇者と仲間たちは城に来てからたいした時間も経たないうちに動きを封じられてしまったのだった。
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