上原派の魔手

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上原派の魔手

 冴華の緊張は最大限に達していた。冴華は隣で歩く上原を見た。上原は両手をポケットに突っ込んでいた。中に隠しているのはナイフだろうか、それともロープだろうか。  いや、大丈夫だ。と冴華は思った。周囲には人がいる。守衛さんもいる。人目につく所で犯行に及ぶにはリスクが高い。きっと大丈夫だ。  安心したのも束の間、新たな疑惑が冴華の心を乱した。  会社内にも上原の共犯者がいるかも知れない。上原の異例のスピード出世の裏には血と罪に塗れた過去があるのかも知れない。会社の中にはきっと上原派なる派閥があり、上原の障害になるモノは全て排除するのだ。そして、それは冴華だ。  気がついた冴華の足から力が抜けた。私はすでにチェックメイトされていたんだ、そう冴華は思った。全身が震え、倒れそうになった。 「てっ勅使河原さん大丈夫?」と上原が体を屈め、冴華の顔を覗き込んだ。その時、冴華のスマホが鳴った。
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