出来る事

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出来る事

 無力感に打ちのめされていた冴華だったが、何かできる事は無いか、と考えていた。  一度でも殺人を犯した者は殺人のハードルが下がる。今回、私は犯行を阻止する事は出来なかった。けど!次の犯行を阻止しなければ!そう、冴華は考えた。  賢くなくても、罪を暴く事が出来なくても、時として勇気がカバーしてくれる。冴華は立ち上がり、上原を探した。  上原は席を外していた。冴華は不安に包まれた。もしかすると第二の犯行が行われるのかも知れない。 「ねえ?上原はどこに行ったの?」と冴華は上原の隣の席の吉田に聞いた。 「え?上原さんなら、給湯室だよ。コーヒー淹れてるよ。あの人偉いよね。自分の分は自分でやるから。それより、勅使川原さん。本人が居ないからって呼び捨ては良くないよ。上司だしさ」 「そう。ありがとう!私、頑張るよ!」と冴華は言い、颯爽と給湯室に向かった。   給湯室では上原が慣れた手つきでコーヒーをドリップしていた。上原は冴華に気がつくと「良かったら、勅使河原さんも飲むかい」と笑みを浮かべた。  冴華は眉間にシワを寄せ「気分が悪いもので」と答えた。 「そうだったね。ごめん。緑茶もあるよ。さっぱりした飲み物の方が良いよね」 「いえ、お構いなく」と冴華は答えた。しかし冴華は何を言えば良いのか分からなかった。勢いのみでここまで来てしまったのだ。 「ごめんね。すぐに終わるからね。もうちょっと待ってて」と上原は給湯室を塞いでいる事を詫びた。 「何が終わるのか、分かりませんが」と冴華は言った。そして思いついた言葉を勇気を振り絞って口に出した。「大事なモノが要らなくなる時ってどんな時なんですか?」  沈黙が流れた。冴華は効いた!と思った。犯行に気が付いていると匂わす事で冴華は次なる犯行を阻止できると考えたのだった。
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