アンフェアの零

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 カフェの窓から見える国道を、車がゆったりとしたスピードで流れていく。定期的に点滅するテールランプだけが存在証明で、エンジンの熱もタイヤの軋む音もここまで届かない。  それをぼんやりと眺めていられる時間を、たぶん平和と言うんだろう、と、穂高は知る。 「あの夏、俺たちはスポーツマンシップを誓うたけど」  穂高は自分の声を聞いて、むしろ驚いた。  自分でも意識せずにこぼれ出た言葉は、真っ青な空と白い雲の記憶と共に、一番、自分の芯の部分にあるものだ。 「大会だけやのうて……いつも、いつでも、おれらは野球選手である前に、スポーツマンやんな。選手宣誓なんかせんでも、当たり前や」  野球だけではない、スポーツはそもそもそういうものだ。  単にルールを守ればいいというだけでなく、競技者として、味方にも、相手にも、すべての〝誰か〟に、アンフェアであってはならないと。  全ての競技者が、まず己に誓わなくては。  そう信じて、ずっとマウンドに立ってきた。 「あそこに居るかぎり、俺はあの黙祷を思い出す気がする」  美しい、圧倒的な夏に染め抜かれた、あの荘厳な静寂。  決してわすれてはいけないもの。  もう、手を伸ばしても届かないけれど、と、穂高は微かに笑っていた。「あと柚子ソーダ、ちゃんと柚子とハチミツを同時に味わうのはどうすればええんやろか」と呟いてみる。
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