アンフェアの零

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 シーズンが開幕したというのに、どうも調子が上がらない。  大型連休まではなんとか乗り切ったが、明らかに踏ん張りが利かない穂高を慮って、先発ローテを1回飛ばして、短い休暇が与えられた。  端から見てもダメだったか、と少し、いや、だいぶ落ち込んでいたのだが、穂高本人としても理由に心当たりがないのだ。  オフシーズンからの調整は上手くいったし、フィジカルの瑕疵は思い当たらない。見た目はほとんど大学生と言われているが、年々、相応に加齢の影響はある。しかし、その凌ぎ方も堂に入ってきていた。  はずだ。  なのに何故? と、気分転換にと実家に戻って、彼と落ち着いて向き合ったところで「ぼんやりと」に戻る。  彼はスマホを確認してから、顔を上げて時計を見る。幾らか考えてから、出し抜けに穂高に問うた。 「お前、第二次世界大戦、というより太平洋戦争か、についてはどれくらい知っている?」 「へっ? えっ、太平洋……?」  余りに意外で、とっさに言うべき言葉が見つからない。穂高が戸惑っていると、彼はすいっと視線を寄越して言う。 「8月15日はなんの日だ?」 「あ、うん、しゅ、終戦記念日!」  彼は、よし、と頷くと続けて、 「8月6日と8月9日は?」 「広島と長崎……15日はお昼、甲子園で黙祷したんで覚えとる。トオルがランナーで出てた」 「はっ、さすがに覚え方が特殊すぎるな」  と彼は笑って、それだけ覚えてれば十分だ、たぶん、とだけ。
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