アンフェアの零

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 彼が選んだ映画は、原子爆弾を開発した物理学者の一代記だった。  物理学者、ということは、つまり彼の大先輩、というか、もう教科書に載るような人物なわけで、ただし……原爆を開発した人物だ。  その男を描いた映画が昨年、アカデミー賞を席巻したニュースは、確かに穂高も聞いた気がする。  この国で生まれ育てば、甲子園でなくとも自然に8月6日と8月9日の意味を知る。世界で唯一の被爆国として、という枕詞と共に。  勿論、穂高も普段はそれを意識しているわけではないが、毎年、あの炎天下の聖地で過ごした厳粛な時間を思い出すくらいはする。  だから穂高としては、というか、日本人であればどうしたって〝被害者〟の立場に身を置くことになる。  一方、アメリカでは未だ原爆投下を正当化する向きも多いという。それぞれの立場や理論、正義が対立する中で、〝加害者〟たる物理学者はどのように描かれるのか。  そんなことを少しだけ考えながら、穂高は彼と映画デートに向かったのだが……
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