アンフェアの零

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 映画は難解だった。  いや、ストーリィ以上に、時間軸を行ったり来たりし、パラドクスやレトリックがちりばめられた演出は、フィクション作品に慣れていない穂高には難易度が高かった、という話ではある。  ただ、主人公の後悔と嘆きの深さと透明度に胸が痛い。  しかし、核分裂どころかポツダム宣言さえあやふやだったので、ちゃんと彼に解説してもらおう、と穂高が横を向くと、 「えっ、かえで、ど、どうしたの!?」  両手で顔を覆う彼が。  顔面のつくりはもちろん、存在自体が優美な彼ではあるが、その手は男性らしく大きく、指も骨張っているのが、むしろアンバランスで好きだった。  などと余計な事を考えていると、 「……アインシュタイン先生にあんなふうに式を突っ返されたら、そりゃ生きていけないよな」  と、彼は呟いた。
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