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「科学に於いて、〝0〟と〝0でない〟の違いは決定的だ。これを乗り越えられるモノは存在しない」
厳しい、まるで触れたら切れそうなほどの鋭さをもって、彼は。
「ゼロでないなら……有り得た世界なんだ。大気に引火して、この地上が全て燃え尽きる可能性も、あったんだ。あの紙切れに書かれた数式の元では」
主人公が繰り返し夢想する、大気圏に刺さる無数のロケットの意味するものは。
敵国だけではない、自国も、捨てざるを得なかった祖国も、まるで無辜の国々も……ヒト以外のすべての動植物も、なにもかもがプロメテウスの火に撒かれ、燃え尽きてしまうその刻が。
「それなのに、博士は実験のGOサインを出した。〝ほぼ〟を飲み込んで」
この地球さえ滅ぼす可能性があったというのに。
ゼロと言い切れないのにトリニティ実験を遂行した彼は、物理屋ではなく政治屋になった。
「だから、恐らくアインシュタイン先生はオッペンハイマー博士に式を返したんだ。お前は科学者ではないと」
だから、生きていけない、か。
科学者として否定されることは、生き方を否定されることなのだ。
彼らにとっては。
……つまり、彼にとっても。
「世界を知るために始めたのに、その世界を壊す可能性がある〝火〟を博士は恐れた。それを生み出した自分自身さえも」
彼の声は夜の底に沈む。
柚子ソーダは上手く混じらないまま、後味は甘すぎた。
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