アンフェアの零

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「ぼんやりとした不安が」  と、穂高が口走ったところ、彼に「なんだ、この令和にダザイか?」と突っ込まれた。まったく意味が取れずにぽかんとしていたら、彼がなんとも言えない表情でスマホを操作し、画面をこちらに向けた。 「ああ、太宰治」  それくらいは穂高も知っていた。教科書で見た気がする。たぶん。きっと。  どうした、と言いたげな彼のアーモンドアイに、うーん、と穂高が口籠もっていると、 「デートするか」  と彼が言う。 「……は? でーと?」 「そう」  デートというのは、ほら、カップルが、と穂高が言いかけると、「正解じゃねえか」と遮られた。  まあそうだ。  そういえばそうだった。 「明後日には戻るんだろ。映画でも見よう」  言いながら、彼は既に端末で検索を始めている。映画デート、本当に恋人同士のようだ、と穂高は思ったが、さすがに口にはしなかった。  きっと怒られるので。
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