白い封筒の告発

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* * *  一つ目の難関をクリアして、心に余裕が出てきた。 しかし、仕事を終える時間が近付いてくると、再び緊張感が高まった。  二つ目『万引き』に挑む必要があるからだ。  残業をせずに帰路に着く。  最寄り駅と、自宅マンションの中間地点にある小さなスーパーマーケット。  俺は入口の前で大きく深呼吸をした。  年配の夫婦とアルバイト数名で営業している地元のスーパー。閉店間際、半額のお惣菜を買うためによく利用している。  店員は皆、顔なじみだ。そんなお店で、俺はあろうことか万引きをしてしまった。言い逃れができない犯罪。  その事実が漏れたのかを確認しなければならない。  確認方法は一つ。素直にやったことを告げて謝るのだ。  その時、誰かに漏らしたか確認する。  あとは、温情で許してもらうことを願うばかりだ。  もし、警察に突き出すと言われたら、ジ・エンド。  黙っているほうが賢いが、そうしたら漏れたかどうか確認することができない。  万引きをしたのは一週間前。  その後、店を利用していない。  意を決して自動ドアの前に立つ。  入店すると、まっすぐレジへと向かう。  いたのは、店長の奧さんだ。今日はアルバイトのおばさんではない。  ちょうどいい。経営側の人間に謝るべきだ。 「いらっしゃい、学生さん」  奧さんはいつも、こう言う。  初めてここを利用したときに同じことを言われ、「これでも会社員です」と答えた。それを覚えており、冗談で言うのだ。  しかし、今日の俺はいつもの返答をする余裕はない。 「すみませんでした!」  レジ台に当たりそうになるほど、頭を下げた。顔を起こすと奧さんは目を丸くしていた。 「一週間前に、万引きをしてしまいました」  改めて頭を下げる。 「どういうこと? ちゃんと説明して」  奧さんの声には疑念が混じっていた。 「ガムを2個と、袋ラーメンをカゴに入れてレジに並びました。レジは太ったアルバイトのおばさんでした。家に帰ってから気が付いたんです。レシートを見たら、ガムが1個分しかレジを通っていないことに」  同じ商品を買う場合『2個』とレジに打ち込む必要がある。  しかし、アルバイトのおばさんは怠ったのだ。  手元に商品が2個あるのに、お代は1個分しか払っていない。これは、1個盗んだのと同じだ。 「すぐに返しにくれば良かったのですが……すみません!」  リュックサックから未開封のガムとレシートを取り出し、差し出した。 「まったく、あのアルバイト……頭、上げてちょうだい」  俺が顔を上げると、おばさんは笑顔だった。 「あの人、ミスが多いのでクビにしたのよ。レジの計算、何度も間違うのよ。困っちゃうわ。気をつかわせちゃって、ごめんなさいね。こちらこそ、謝らなきゃ。このガム、お詫びに取っておいて」  俺は両手を体の前でプルプルさせて拒否した。 「お願いします、払わせてください」  それでも奧さんは商品を渡そうとしたが、最後は折れた。 「次は若いアルバイトを雇う予定。また、来てちょうだいね」  耐えた……耐えたぞ!  二つ目の試練をクリアだ。  俺は小さくスキップしながら、店を出た。
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