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そんな中、私にはとても気になることがあった。
「二週間前から虹が消えない現象、本日もまだ消えていませんね。今日は気象の専門家の方にお話を伺いたく……」
「普通は1時間ほどで消える虹が、二週間も消えていません……」
「地球の異常気象の前触れではないかという意見が……」
そう、あの日、翔太がニジコちゃんを拾ってきた日、山には大きな虹がかかっていた。その虹が二週間経った今も消えない現象が続いているのだ。
「もしかして」
私はよちよちと私の足のまわりを歩くニジコちゃんを見つめながら呟いた。
「ねえ、あの大きい虹って、あんたのお母さんかお父さんなのかな?」
ニジコちゃんは何も言わない。
あの大きな虹は、探しているのではないだろうか。ある日どこかへ行ってしまった、自分の子供を……。
私はその日、翔太に、ニジコちゃんを大きな虹のところへ連れて行くことを提案した。
あの大きな虹は、もしかしたらニジコちゃんのことを心配してずっと消えずにあそこに留まっているのかもしれない。そうだとしたら、ニジコちゃんが離れているのは可哀想でしょう?
そう言うと、翔太は下を向いた。そして、ニジコちゃんをそっと撫でて、小さく頷いた。
私と翔太は、ニジコちゃんをかかえて、山にかかる大きな虹に向かって車を走らせた。
虹には、近づいても近づいても近くならなかった。でも、走るうちに、翔太の腕の中のニジコちゃんは興奮しているかのように七色の霞を光らせてくる。
「やっぱり帰ろうよ。ニジコちゃん何かおかしいし……」
翔太がそう言った時だった。
「……◯☓☓!!☆◯Ψλ☆!!」
今まで一切吠えなかったニジコちゃんが、表現できないような言葉で叫びだしたのだ。
私は驚いて車を止めた。
ニジコちゃんは窓に向かって勢いよく突撃している。
窓を開けてあげると、すごい勢いで外に飛び出した。
「ニジコちゃん!!」
翔太は慌てて自分も外にでた。
「待って!ニジコちゃん!行かないで!」
翔太は泣きそうな声でニジコちゃんに叫んだ。
ニジコちゃんは、一瞬だけ止まった。
しかしすぐに、空へ空へと飛んでいってしまった。
ふと気づくと、そこには大きな虹が私達を見下ろしていた。
家から見るより、ニュースで見るより、ずっと大きな虹だった。
ニジコちゃんはその大きな虹に向かって行ってしまった。そして、その虹と同化した。
ニジコちゃんが消えたと同時に、その大きな虹もスッと消えた。
ああ、やっぱり、虹の赤ちゃん、探してたんですね。ごめんなさい、ずっと。心配してたでしょう。
私は、虹の消えた山に向かって小さく呟いた。
翔太は泣きそうな顔をしながらもじっとこらえていたようだ。
「ひどいな。バイバイも言わないなんて」
「言ったかもしれないよ。さっき何か叫んだじゃない」
私の言葉を聞いて、翔太はじっと濡れた瞳で空を見上げていた。
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