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ニジコちゃんが消えてから数日。
翔太は、ニジコちゃんが行ってしまったショックが大きかったらしく、もう虹なんて見たくないと、雨上がりを下を向いて歩くようになってしまった。
時間が解決してくれることを祈って、私は翔太をそっとしておくことにした。
そんなある日だった。
午前中に少しだけ雨が降ったがすぐに晴れたそんなある日だった。
私は掃除のためにベランダに出た。そしてふと空を見上げた。空には大きな虹がかかっていた。
そして……。
「翔太!翔太!ちょっとこっちに来て!」
私は興奮しながら翔太を呼んだ。
「なに?」
「虹!虹見て!」
「ママ、僕はあんまり今虹見たくない……」
「いいから、よく見て!」
私は無理やり翔太をベランダに出した。
「なんだよ、普通の虹……」
「よく見て。あの、赤と朱色のところ」
私は大きな虹を指さした。
「え、あれって……」
「そうだよ、あれ、ニジコちゃんじゃない?!」
出ていた大きな虹は、一部、赤と朱色の辺りがえぐれていた。うちのカーテンにまだ染み付いている、ニジコちゃんの痕跡と同じ色のところだ。
ニジコちゃんのイタズラのあとだ。
「ニジコ、ニジコちゃんなの?」
翔太は空を見上げて叫んだ。
その途端、暖かい風が吹いた。
それはまるで、翔太が見てくれるのを待っていたかのようだった。
虹はそれからすぐに消えた。
「大きくなってたね、ニジコちゃん」
翔太は、虹の消えた空を見つめながら言った。
「翔太に会いに来たんだね」
私も言った。
雨上がり、湿って暖かな風が吹いて、赤と朱色のシミの取れないカーテンが揺れた。
END
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