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「降参です。帰ります」
「うむ」
私の言葉に老紳士は満足そうにうなずいた。
周りにいたムキムキ人魚たちも嬉しそうな声をワッとあげた。
歓声、という言葉が似合う声だった。
相変わらず、背後からは人間たちのパニックの声が聞こえたが、それももう終わるだろう。
私は着ていた服を全て脱ぎ捨てると老紳士の手を取った。
「さぁ帰るぞ、我が娘。いや、姫よ」
「はい、お父様」
元の人魚姿に戻った私は、父である老紳士人魚の手に導かれて、ムキムキ人魚で埋め尽くされた海に飛び込んだ。
そして、ちゃぽ、という音とともに人魚たちは消え去り、私の周りは見慣れた水で満たされた。
「次人間の所へこっそり行ったら、これではすまさんぞ」
「はーい」
少し怒ったような口調でいう父親の声に返事をしながらも、それでパニックになるのは人間なので、刺激を求めにまたこっそり人間の所に行くのはありかもしれないな、とひっそり思ったのは、内緒だ。
今日は人間にとってはとんでもないトラウマ級の一日となったであろうが、刺激のない日よりは、面白いだろう。
なんだかんだと、人間としての生活をひっそりするのを気に入っている私は、次はいつどの家に行こうかな、なんて考えながら、海の底にあるわが家へと泳いだ。
fin
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