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それでジイさんと仲良くなったのかって?
お前なぁ、俺たちをナメるなよ。たった一回食べ物を貰ったくらいで懐くわけないだろ!
そんなユルユルの警戒心じゃ、巣立ちした瞬間に死んでるわ!
──そうだな。次にジイさんに会ったのは、酒を呑んでから十日後くらいだったか。
それまで何をしてたかって? いつも通りの一日を過ごしてただけさ。縄張りを巡って、メシを探して、市役所の鳥類掲示板と伝言板をチェックして……
そういえば犬伝言板はとうとう廃止になっちまったな。
もう自由に生きている犬は殆どいないってことだ。ニンゲン様ばかりがでかい顔しやがって……
おおっと、愚痴っぽくなっちまった。すまない、すなまい。
次にジイさんにあった時も、俺は腹が減って限界だったんだ。ちゃ~んとメシにありつけてりゃあ、俺だってニンゲン様に頼るようなことはしないさ。でも、腹が減りすぎて、三途の川が見えたんだ。川の向こう側で、仲間が美味そうなメシを食いながら、カァカァ♪ かぁかぁ♪ 楽しそうに騒いでいたんだ。危うく向こう側に飛んでいきそうになったぜ。まぁ、何とか留まって、ジイさんのとこに行ったんだ。
ジイさんは、前と同じように、寝ぐらの前にイスを出して座っていたよ。俺はジイさんの視界に入るようにワザと目の前に止まって「ガァーーー!」ってジイさんを呼んだ。
そしたらジイさん、死んだ魚の様な目が、みるみる生気に溢れてキラキラしてきたわけよ。お前は恋する乙女かよ! ってくらい、表情が緩んで……
あぁ、思い出しても寒気がする……とにかく、嬉しそうな笑顔を俺に向けてきたわけだ。
「ダイゴロウか! よく来たなぁ」
もう語尾にハートマークが四、五コ付きそうな声で話しかけてきて、鳥肌立ったわ。……お前はカラスだろう! ってツッコミはナシな。
その時の俺は、腹が減って死にそうだったから、
「かぁぁ〜〜〜(食べ物くれ〜〜〜) 」
って精一杯叫んだわけよ。情けないことに、腹が減りすぎてか細い声しか出なかったけどな……。
そしたらジイさん、
「酒が欲しいのか?」
とか聞いてきやがった。俺、腹が立って、
「カァァ‼ (食べ物だっ‼) 」
って睨みつけながら言ってやったんだ。ジイさん、俺の剣幕に驚いたんだろうな。ゆっくりと立ち上がって寝ぐらに行って、食べ物を持ってきたんだ。
「すまねぇなぁ、今日は酒はないんだ。代わりにメシ食ってくか?」
そう言って、目尻を下げながらパンのミミを差し出してきた。久しぶりのメシだ。俺、夢中で食らいついたぜ。
「美味いか? たくさん食え、食え」
ジイさんは俺を満足そうに見つめながら、どんどんパンのミミを差し出してきた。
そんなジイさんを見て、俺は思ったわけよ。
ジイさんのとこに俺がメシを食べに行けば、ジイさんもハッピー、俺もハッピー、つまりWIN WINの関係ってやつじゃないかと。
だからな、俺はそれからジイさんのとこにメシを食べに行くようになったわけよ。
いいか、間違えるなよ! 決して餌付けされたわけじゃない。ジイさんのために行ってやったんだ。
だいたい、俺だって暇じゃないんだ。ジイさんのところに行くのは、2、3日おきくらいだ。ジイさんは、俺が行くと毎回喜んでメシをくれたよ。時には、自分が食べてたメシを全部くれたこともあったな。
カラスの俺が来ても、イヤな顔は一回もしなかったな……。
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