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どれくらいジイさんと過ごしたかな。二年ぐらいか? 居心地が良かったんだよ。まさかカラスの俺がニンゲン様と一緒に暮らすとは思っていなかったよ。
でもな、幸せってのは永遠に続くような錯覚を起こすけど、物事にはいつか終わりがあるわけよ。ジイさんとの生活も終わりの日がきちまった。
あの日は長雨が続いた後の久々の晴れだった。
俺は久しぶりに縄張りを見回って帰ってきたらジイさんの姿がない。
「カァ〜〜〜!」
大声でジイさんを呼んでみたが、水量の増した川の音が響くだけだ。いつもなら、「おぉおぉ、ダイゴロウ、帰ったかぁ〜」と笑顔で出てくるのに。
──何かがおかしい
俺はジイさんの寝ぐらの中を覗き込んでみた。寝ぐらの中は薄暗く、じっとりと湿った空気が漂っていたよ。そして、真ん中ぐらいにジイさんが丸まって倒れているのをみつけた。
「ガァッ⁉」
俺は慌ててジイさんに駆け寄って、顔を覗き込んだ。ジイさんの顔は真っ白で、薄っすら開いていた目は乾いていてな、もう命が途切れていることをはすぐにわかったよ。
俺は暫し呆然と立ち尽くしちまったが、あることを思い出して慌てて外に飛び出した。そしたらさ、俺が出てくるのを待っていたかのように、ジイさんの寝ぐらから真っ黒な何かが飛び立ったんだ。大きな影が俺を通り過ぎて、すーっと消えた。
あぁ、ジイさん、行っちまったんだな……
なぁに、寂しくなんてないさ。前に、戻っただけだ。
ん? 何を思い出したかって?
酒を飲みながらジイさんがよく話してたことさ。『俺は死んだら、鳥になりたいなぁ。できれば、ダイゴロウと同じカラスになれたらなぁ。一緒に飛んでみたいなぁ』って。
だから、ジイさん、カラスになったんじゃないかと思ってさ。
なんでこんな話をしたのかって?
そりゃ、お前が何処となくジイさんに似てたからさ。
──さぁて、俺はそろそろ行くぜ。
どこに行くかって?
酒を飲みながら、じいさんと約束したんだよ。『俺がカラスになったら、三途の川岸で酒を一緒に飲もうな!』って。ジイさんが待ってるんだ。一年ぶりにジイさんと酒を飲むんだよ。
おまえ、辛気臭い顔して、いつまでも川なんか見てんじゃないぞ。あと、そんな食えもしない匂いのキツイ花なんて、ジイさん喜ばねぇ。ジイさんは酒が好きだからな。
じゃあな!
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