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2 ディスカバリー号出帆のいきさつ
青年は〈ディスカバリー〉号を傭船する1年前、前人未到の離れ業をやってのけていた。
それはオリュンポス山に登るという天に唾を吐くがごとき挑戦であった。
彼が実際に登るまで、オリュンポス山には神話の神々がおわす山として神聖視されており、地元の人間は誰一人として足を踏み入れることはなかった。
青年は三角測量によっておおよその標高(約3,000メートル)を算定し、傾斜と距離から踏破日数を概算、食料を小分けにして運び込む極地法を使って霊山に畏れ多くも侵入したのである。
誰もがゼウス神の雷によって黒焦げになった青年の死体が返ってくるものと思っていたのだが、その予想は幸いにも裏切られた。数日後、彼はなにやら興奮気味にまくしたてながら無傷で下山したのである。
「みなさん、聞いてください! オリュンポス山の頂上にぼくは到達しました。そこからなにが見えたと思いますか?」
畏れを知らない異国の男を取り囲む麓の人びとは息を呑んだ。「ゼウスさまだべか?」
「そんなものいるはずないでしょう。海ですよ、海!」
「なあに言ってんだ、おめえ」
「十分に高いところから海を眺めると、水平線が丸みを帯びてるんです。これは噂に聞く〈ガイアの縁〉に違いありません」
「そらまあ、海の向こうは滝になっとるゆう話やが」
「伝説でしか語られたことのない〈ガイアの縁〉、ぼくは絶対この目で見てやります」
1年後、青年は〈ディスカバリー〉号を傭船することになる。
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