出会いは最悪

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出会いは最悪

 いったい何なの? ……あの男。  プレゼンの最中に茶茶は入れるは文句は言うは……。  ファッションビルのワンフロア。有名ブランドの新規オープンの仕事。インテリアデザイナーとして大阪まで来たというのに……。  壁紙の色から床材、照明に至るまで全て却下、やり直しですって?  冗談じゃない。  今回の出張は二日間。プレゼンからクライアントにOKを貰って契約に漕ぎ着けて遅くても明日の夜には東京の社に帰る予定だったのに……。  何が気に入らないのよ?  初めて任された大きな仕事。毎日寝る時間も惜しんで考えて、先輩からも 「かなり良いんじゃないか?」  と御墨付きを頂いて自信を持って乗り込んだ大阪で、まさかこんな目に遭うとは……。  だいたいクライアントのトップである社長はOKを出してくれたのに。 「いや駄目だ。このビルに関しては僕が責任者だから」  あくまでも徹底抗戦の構え?  とにかくもう一度現場を見せて貰うことにして。一緒に大阪に来た三年後輩の田中君と現場の担当者のやや年配の伊藤さんという方と出掛けた。 「どう思う? 田中君」 「僕は藤村さんのデザインは完璧だと思いますけどね。壁も床も照明も間違ってないと思いますよ。何故なんだろうな?」 「私も納得出来ないわよ。やっぱりこのままでもう一度押してみよう」 「そうですね。そうしましょう」 「あのう、伊藤さんはどう思われますか?」 「私は先程のプレゼン素晴らしかったと思います。新しい店舗のイメージが掴めました。どこも変更なしで進めましょう」 「本当ですか? でもさっきの方は……」 「あぁ、彼は、この仕事そのものに敵意を持ってますからね」 「敵意……ですか?」 「これは私の予想ですが、藤村さんのプランのままで進むと思いますよ」 「えっ?」  どういう事なのかは宿泊先のホテルに帰って分かった。  プレゼンの報告を社長にしたら、既にクライアントである社長から電話が入って、素晴らしいデザイナーを遣してくれたと絶賛してくれたそうだ。あのプランで是非お願いしたいという事だった。  そこで知ったのは……。  全て却下と言った彼は、社長の御曹司。大学を卒業してから世界中を放浪していたらしい。  三十歳になり、いいかげん会社を継ぐことを考えろと父親である社長に呼び戻され、プロジェクトの責任者に据えられた。
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