御曹司

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御曹司

「でも良かったですね。どうなる事かと心配しましたよ。もう一度乾杯しましょう」 「田中君のお陰よ。本当ありがとう。感謝してる」 「いえ、僕なんか何もしてないですよ」 「そんな事ないわよ。毎日遅くまで一緒に残業してくれたじゃない。彼女、怒ってなかった?」 「大丈夫です。仕事に口出しはさせません」 「へぇ、意外と亭主関白になったりして?」 「勿論です。男は仕事が一番大切ですからね。藤村さんは僕にとって憧れです」 「えっ? 私、一応、戸籍上は女ですけど?」 「分かってますよ。どこから見ても素敵な女性ですよ。でも仕事は男以上です。僕も早く独り立ちしたいです」  大阪の夜、食事を済ませて宿泊先のビジネスホテルの近くのバーで二人でちょっと気の早い祝杯を挙げていた。カウンターで飲んでいたら……。 「ねぇ、あの奥のボックスに居るの……もしかして御曹司?」 「えっ? あっ本当だ。そうですよ。一人みたいですね」 「かなり出来上がってない?」 「ですね。いいですよ、放っておけば……」 「あぁ、立ち上がってフラフラみたいよ」  お節介だと分かってはいたけれど……。 「大丈夫ですか?」  近付いて声を掛けた。 「あぁ、これは優秀なインテリアデザイナーさんじゃないですか」 「もう帰られた方がいいですよ。田中君、お支払いどうするのか聴いて来て」 「あ、はい」……。 「いつも会社に付けだそうです」 「そう分かった。あと、ごめん。タクシー拾って来て」  「はい」と田中君。  二人で何とかタクシーに乗せた。自宅の住所くらい言えるだろう。 「何から何まで世話の焼ける人ですね」 「そうね。でも御曹司には御曹司なりの苦労もあるのかもね。私たち下々の者には、到底理解出来ない悩みとかもね。さぁ、私たちも帰りましょうか」  支払いを済ませてホテルに帰った。 「じゃ、おやすみ」  「おやすみなさい」  明日の朝、クライアントの会社で仮契約書にサインを貰って、後は帰って資材の発注、工事の担当者と打ち合わせをして。とにかく期限までに最高の物を関わった者全員で造り上げる。  達成感とでも言えばいいのか、この仕事には確かに魅力がある。  女だてらに……と言われることも多々あるけれど……。
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