私流の生き方

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私流の生き方

「伊織君にはベテランの西崎君の下で仕事を覚えて貰うつもりだが、藤村君もデザイナーの先輩として色々教えてあげて欲しい」 「はい。分かりました。あの、すみません。クライアントとの打ち合わせがあるので……」 「あぁ、そうだったね。三年前に藤村君がデザインしたヘアサロンの二号店の依頼が来ていたんだね。ファッション雑誌に載っているのを娘に見せてもらったよ。大人気店だそうじゃないか」 「はい。約束の時間になりますので失礼致します」 「あぁ、宜しく頼むよ。今回も期待しているよ」  社長と御曹司に軽く頭を下げて部屋を出た。  はぁ、先輩か……。さぁ、仕事、仕事。  その日は三年ぶりに会うヘアサロンのオーナーさんとすっかり話し込んでしまって、社に戻るのが遅くなってしまった。 「ただいま」と帰ると「おかえりなさい」の声。  大先輩の西崎さんと御曹司が今までの資料を見ながら、こちらも話し込んでしまって居たらしい。 「あぁ、もうこんな時間か。お疲れさん。そうだ。これから飯でも食いに行くか? 藤村君、デートの約束が無ければ一緒に行かないか?」  私にデートの約束など無い事は、会社の誰もが知っているはずなのに……。 「すみません。今夜指定の宅配便が届くので帰ります」 「そうか、残念だな。じゃあ男二人で行くか」と西崎さん。 「お先に失礼します」と会社を出た。  ご飯だけで済むはずがない。西崎さんもお酒は好きな方だし、御曹司は……あれは酒に飲まれるタイプだし……。  逃げた方が得策。さっさと帰ろう。カカワラナイわよ~っ。絶対に!!  きょう着くのは化粧品。身の回りの物は全てと言ってもいい位ネットショッピング。  せっかくの休みにデパート歩きなんてそんな疲れる事は、もうしなくなった。交通費を使ってデパートやファッションビルを歩き回って、それでも気に入る物が無い事だってある。しかもまず定価。  化粧品や洋服、靴やバッグに下着まで……。現物を見られないのはマイナス要素ではあるけれど……。慣れてくると失敗も少なくなる。ブランドやショップが決まってくるとセールや底値も分かる。  特に化粧品の類は三割引、半額なんて当たり前。きょう届く化粧水はフランスのブランドの物。定価の九割引で購入した。日本のショップでは扱っていない商品。  今はネットショッピングが唯一の息抜きでもあり楽しみでもある。それが寂しいとか考えた事も無い。私は私。私流の生き方だから。
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