19人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
6月14日 雨が上がる
梅雨入りと言っても、雨は上がる。しかも今日は一日からっとした良い天気らしく。
お母さんが朝から、庭に洗濯物を干してご満悦だった。
お父さんと僕は傘を差すのは荷物が増えるので、久々に両手がフリーと言うのは、歓迎と言う気持ちだった。
あのテルテル坊主もどきは、ちょっと説明がしにくく。誰にも言って無かった。
あれが幽霊とか言われるのも、なにか違う気がしたし。
学校の友達に変だと思われるのも嫌だから、ここは黙っている一択かなと思った。僕の見間違い説も捨てきれない。
だから。もし、次見かけたら誰かに話してみよう。そんな感じだった。
そんな訳で、今日もいつものように変わらず。
朝食を食べ終えて学校に登校するだけ。
家の外に出ると、雨上がりの道路は水の湿った匂いが充満していた。
まだジメジメとした空気が、道路にうずくまっているような感じがしたけども、朝日が清々しいのでまぁ、許せると思いながら。
水溜りを避けて学校に登校するのだった。
学校に着くと朝のホームルームがあり。
先生が教壇に立って、話し始めた。
「えー。おはようございます。今日は雨が上がりました。なので、カトウさんが居なくなりました」
カトウさんが居なくなった?
ざわっと皆の動揺が広がる前に先生が「はい、ざわざわしない」と、牽制する。
「皆の気持ちも分かるが、今は梅雨の期間。雨が上がったから仕方ないだろ? な? 皆も承知の上だろ。今回はたまたまこのクラスから、居なくなっただけ。皆は気にしないように。むしろ、もう少しで夏休みが始まるから、その前にミニテストがある。先生はそれを気にして欲しいです」
「えっー」と言う戸惑いの声。
それはカトウさんが居なくなったから、なのか。ミニテストに不満なのか。僕には分からなかった。
ただ、カトウさんが居なくなったのは、僕も雨が上がったから仕方ないと言う気持ちと。
豪雨を見ているような、ざわついた気持ちが胸に広がりソワソワしてしまっていた。
すると、隣の席のサガミ君が手をぴっと上げた。
「はい、先生質問です。カトウさんが居なくなったので、図書委員は誰がしますか?」
「そうだな。質問をしてくれた人にやって貰おうかな」
「えっー、なにそれ。ずりぃ」
サガミ君は文句を言いながら僕を見て「先生ひどくね?」と、意見を求めて来たのでうんと、頷く。
すると、周りはいつの間にかクスクスと笑い声が起こっていた。
「ま、冗談だ。図書委員はまた、おいおい決めよう。カトウさんの席や荷物は後ほど市役所の人が回収にくるから、カトウさんから借りている物があったら、早めに先生に持って来て欲しい」
はーいと、皆の声。
先生はそれに一つこくりと、頷いて。
「よし。まだ梅雨明けじゃないから、こう言うことが、まだあるかもしれない。けど、気にしないようにな。よーし、授業始めるぞ」
と、いつも通り。
明るい声で授業を始めるのだった。
僕はまだ、胸騒ぎが落ち着かず。
傘を忘れて、止まない雨が降り続けている様な気持ちで。
カトウさんが使っていた席をしばらく、ぼんやりと見ていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!