7月6日 明日は梅雨明け

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7月6日 明日は梅雨明け

スマホを見ると八時。今日は休みだからゆっくりと寝れるのが嬉しい。 九時ぐらいにはいつも通り、お母さんが叩き起こしてくるから、それまでは布団の中でゴロゴロするのが日課だった。 布団の中でごろりと体勢を変え。 ふと、窓を見るとカーテンから朝日が漏れて今日はすっきりとした快晴だと分かった。 そういやニュースで、明日の七月七日には梅雨が明けて。織姫と彦星が会えるとか言っていた。 窓の向こうからぴちちと、鳥の囀りが聞こえる。 この地域は一足先に、梅雨が終わったのだと思った。 「あー、だったらそろそろ、ミニテストがあるな。勉強しなくちゃ」 学校には随分と馴染んだが。転校してからの初めてのテストで、低い点を取るのはちょっと。かっこ悪い様な気がして。今日は少し勉強を頑張ってみようと思った。でも、まだ眠たくて。 「もうちょっと、寝てからにしよう……」 そんなことをうつらうつら、考えていると瞼がどんどん重たくなり。 そして、また眠りに入る寸前。 窓の向こうからバンっと車のドアを閉める音がした。 あまり聞き慣れない音に、耳が勝手に音を捉えた。でもまぁ、そんなこともあるかと思い、ごろりと横になると。 家のインタホーンが鳴った。そして、何か玄関で話す人の声を聞こえてくると、心地よい睡魔がゆっくりと。逃げて行く感じになった。 「うーん……もう。誰なんだよ」 思わず愚痴ぽっい言葉が出てしまった。 日曜の朝に尋ねくる人って何だろうと、ぼんやり思っていると。 また窓の外でバンっと乱暴に車の扉を閉める音がしてから、車が走り去って行く音がした。 それは、素早く此処を立ち去りたいような。 急いでいるようなそんな気配を感じた。 何かあったのかと目をぱちくりとさせていると、部屋をノックする音がしてから──お母さんじゃなくて。 スウェット姿に、寝癖が付いたお父さんが入ってきた。 「おーい。おはよう。そろそろ起きろよ。今から朝ごはん作るから手伝えよ」 父さんが? 珍しいと思い体をベッドから起こしてうんっと、背伸びをする。 「ん、おはよう。お父さんがご飯作るとか珍しいね。また、新しいプラモデルを買ってお母さんにバレたとか?」 すると、父さんは壁に背を預けて困ったように笑った。 「違う違う。もうバレる必要はなくなったぞ」 「どう言うこと?」 「父さんも、まだびっくりしているんだけどな。 さっき市役所の人が来てな。お母さんがな『アガリ』になったんだって」 「アガリ?」 「ほら、この村。梅雨の時期。雨が上がると人が消えるだろ?」 「うん」 「その消えた人の事を、役所の人は『アガリ』になると言うそうだ。で、お母さんは消えた。アガリになりましたよーって、今。役所の人に教えて貰った」 「マジで?」 身を乗り出して聞き返す。 「マジだよ。びっくりだよな。それでさ『アガリ見舞金制度』って言うのがあって。申込むと毎年助成金が出るから、申請して下さいって。役所の人が来たんだよ。いやーこの村は助成金手厚くて、いい村だ」 お母さんが消えた。 いや。アガリになった。 すごくびっくりして、悲しいのに、なぜか頭の中にまたもや。ざぁざぁと上がらない雨のようなノイズがあって、上手く感情が出せなかった。 少し、黙ってしまうと。 頭の中の雨はびっくりも、悲しいも。ざぁざぁとノイズに消されて──。 「仕方ないか。雨が上がったもんね」 「そうだ。仕方ない。雨が上がったからな」 お互いはぁと、ため息をはいたところで父さんが、また困った顔をして。 「ま、これからは男二人で頑張って行こう。だから、まずは一緒に朝ごはんから作ろう」 そう言われると、断る理由なんか無くてベッドから身を起こし。お父さんを手伝だおうと思った。 お父さんと僕はお母さんみたいに、半熟の目玉焼きを作れない。 それはとても残念だなと思った。
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