7月6日 23時55分〜

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7月6日 23時55分〜

夜になり。 ぼんやりと眠れずに窓から外を見ていた。空は晴れていて月が明るい。星も見える。 それでも良い夜とはちっとも思え無かった。 「こんな気持ちなのは仕方ないけど、お母さんが『アガリ』になったせいだよなぁ」 どうしようも無いことだと思うのに。早く寝なければと思うのに。目が冴えて無理だった。何度かため息を吐いていると。 車の音が聞こえて、家の前で止まる音がした。 それから車の窓が、うぃぃんと下がる音。 「こんな夜中に?」 思わず窓の横に体を隠して、耳をそば立てる。 すると声が聞こえて来た。それは男の人の声だった。 「えー。こちらアガリ済みT家。車からの目視確認。問題なし。周囲も異常なし。アガリ様の洗脳は問題なしと見られる。このまま指定贄区を巡回後。すぐに戻る」 夜の田舎。 声は驚くほどクリアに聞こえた。 しかし、その意味は全くわからない。 「あぁ、わかっている。特殊防護をしていると言え、長く滞在しているとこちらも洗脳されてしまうからな。すぐ戻るさ。今のところ、今年も問題なさそうだ」 また来年だなと言う、声がしてから。 声の持ち主と車は、あっと言う間に去って言った。 僕は何だか聞いちゃいけない秘密を聞いてしまったように。胸がドキドキした。でも、ざぁざぁとまた頭に音がして。 しばらくするとその音が止んだ。胸のドキドキも止まった。 部屋の時計を見ると24時を過ぎて七月七日になり──梅雨が終わったと思った。雨が上がった。 もう人は消えない。 でも、また来年梅雨はやって来る。 だから僕も誰かに。 『この村は雨が上がると、人がいなくなる』 って、教えてあげたいなと思いながら。 窓を閉めて、ベッドに潜り込むのだった。
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