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6月10日 梅雨入り前
この村は雨が上がると、人がいなくなるらしい。
それは梅雨の時期だけだと、先生やクラスメイトに教えて貰った。不思議な話だと思った。
他には兄弟がいるサガミ君は。僕の家の近くの公園には、白と言う黒猫が住んでいて可愛いとか。
お母さんが市役所で働いてるカトウさんは。スーパーの二階の本屋さんが、ゆっくりと立ち読みが出来るとか。
先生も掃除のおじちゃんも凄く、親切に色んな事を教えてくれた。正直助かったし、ホッとした。
これで転校初日。
五年生の六月。何とも中途半端な時期の転校は、変な目で見られるとか言うことはなく。
そっとファンタジーラノベを読み終えるように。最初はドキドキして、最後はグッドエンドを迎えるかのように。満足の行く内容で初日の幕が降りたと思った。
そんな学校からの帰宅途中。
家への道のりを迷わないように、注意深く回りを見るけれども。
村と言ってもここは、なんて言うか。僕が住んでいた都会の空気感があった。
黒々としたアスファルトの道。手入れされている通路の木々に今、通り過ぎた綺麗な公園。
「なんか、区間快速が止まらない駅の町って感じ」
人が少なく。少し寂れているのは否めないけど、車が横をブンブン通り過ぎたり。スマホを見ながら運転する自転車などが居なくて良いと思った。
でも、行く前はあんなに嫌だと思っていたのに。
この村に着くと不思議とそんな気持ちは薄れた。
頭の中でざぁーっと、雨が降るような違和感を感じてから。
スマホのグループチャットで毎日皆に連絡すると言ったのに、オンラインゲームで必ず集会しようと言ったのに。
なんか、どうでも良くなった。
きっとお母さんがやたらと何度も言っていた「田舎特有のおおらかさ。住みやすさ」ってヤツを早くも身を持って体感したせいだろう。
「えっーと、あれ。住めば都って言う古いコトワザ? 的な感じなのかな」
それにマンション暮らしから、少し古いが庭付きの一戸建てに家が変わって。広い自室にクラスチェンジしたせいかもしれない。
何とも変な気分だったが、これからはこの村で上手くやって行けると思ったのだった。
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