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久しぶり…
実に、久しぶりだった…
このFK興産に、戻ってきたのは、実に、久しぶりだった…
が、
私は、これから、向かうのは、社長室ではない…
社長のナオキの近くで、社長秘書をするわけでは、ないからだ…
だから、一目散に、会議室に向かった…
臨時の取締役会が、行われる会議室に向かった…
しかしながら、その途中で、FK興産の社員に、何人か、お目にかかった…
ただ、会社の廊下を歩いているだけだったが、当然、FK興産の社内だ…
FK興産の社員が歩いている…
その中には、これも、当たり前だが、私を見知った社員がいて、驚いて、私を見ていた…
あるいは、振り返って、私を見ていた…
そして、誰もが、唖然とした表情になった…
少しおおげさにいえば、本来、ここでは、会えない人間…
もはや、いなくなったと、思った人間を、目の当たりにしたのだから、当然と言えば、当然なのかも、しれない…
それに、なにより、自分で、言うのも、なんだが、私は、FK興産内で、目立っていた…
なにより、社長秘書だ…
社長のナオキの近くに、いつも、いる…
いつも、寄り添っている…
これでは、目立たないわけはない(苦笑)…
また、自分で、言うのも、恥ずかしいが、私は、他人様より、ルックスが、いいので、余計なのかも、しれない…
余計、目立つのかも、しれない…
そう、思った…
そう、考えた…
同時に、そんなことを、言えるのは、あと何年だろうとも、思った…
以前にも、言ったが、アメリカの大物司会者が、
「…女は、40歳を過ぎたら、価値がない…」
と、テレビで発言して、クビになったそうだ…
これは、事実、正しい…
女の私でも、正しいと、思う…
いや、
私に限らず、女は、皆、内心、密かに、思っている…
要するに、ここで、言う価値とは、ハッキリ言えば、性的対象というか…
…あんな女と結婚したいとか…
…あんな女と、一晩でいいから、共にしたい…
とか、言う下心…
友人とか、仕事仲間を求めているわけではないということだ(笑)…
だから、それを、思えば、私も、あと何年…
あと何年、美人と呼ばれるか?
いや、
美人と周囲から、呼んでもらえるか?
考える…
考えさせられる…
自分は、心の中では、美人のままだが、周囲の反応が、違ってくる…
要するに、下心…
それを、私を見て、感じるか、どうか?
その違いだ…
だから、自分では、いつまでも、美人のつもりでも、周囲では、すでに、対象外扱い(笑)…
自分では、まだまだ、イケると、思っている…
そんなイタいオバサンには、なりたくない…
しかしながら、そうはいっても、すでに、32歳…
ゴールは、近い(苦笑)…
賞味期限切れの日は近い…
なにより、困るのは、私が、かわいい感じの美人ではないこと…
私は、芸能人で、言えば、元フジテレビで、今は、フリーアナウンサーの近藤サトさんのようなタイプの美人だからだ…
だから、自分で、言うのも、なんだが、かわいくはない…
目鼻立ちの整った正統派の美人(笑)…
そして、目鼻立ちの整った正統派の美人の欠点は、歳よりも、老けて、見えること…
近藤サトさんもまた、フジテレビに入社した頃…
「…もしかして、中途入社?…」
と、周囲から、からかわれたそうだ…
つまり、実年齢より、数歳、上に見られる…
それが、正統派の美人の欠点…
あるいは、弱点とも、言える…
数少ない例外は、歌手の河合奈保子さんぐらいだろう…
彼女は、目鼻立ちの整った正統派の美人にも、かかわらず、可愛らしく愛嬌があった…
しかしながら、これは、例外中の例外…
めったにお目にかかれるものではない…
だから、実は、自分で言うのも、なんだが、かわいい感じの美人に憧れる…
愛嬌のある美人に憧れる…
なぜなら、愛嬌のある美人の方が、賞味期限が、長いからだ…
少なくとも、私の感覚では、5年は、長い(苦笑)…
そう、実感する…
そして、それは、そんな実例を見たことがあるからだ…
ずっと、以前、当時、よく利用していたコンビニに、女優の常盤貴子さんを小柄にしたタイプの美人の女のコを、よく見た…
私と同じく、近所に住んでいたのだろう…
ときどき、会った…
当時、彼女の歳は、二十歳ぐらい…
ビックリするほど、キレイで、可愛かった…
女の私でも、思わず、二度見、三度見、するぐらいキレイで、可愛かった…
そして、一度だけだが、その常盤貴子さんに、似た女性が、そっくりのルックスの年上の女性といっしょにいたのを、見たことがある…
私は、最初、その女性をお姉さんと思った…
少し歳の離れたお姉さんと、思った…
が、
よく見ると、歳を取っている…
おそらく、四十歳には、なっている…
だから、母親…
そのキレイで、可愛い女性の母親だった…
しかしながら、よく見なければ、わからない…
なにしろ、母娘が、そっくりだからだ…
外見が、瓜二つだからだ…
そして、若い…
一見すると、実に、若い…
実に、若く、見える…
だから、彼女たちを見ると、つくづく、可愛らしさがあるといいなと、思ったものだ…
四十歳を過ぎても、イケてる…
正直、四十歳を過ぎても、賞味期限を切れていない(笑)…
それほど、若くて、キレイだった…
それほど、若くて、可愛らしかった…
だから、憧れる…
自分には、できないことだからだ…
だから、憧れるのだ…
私は、FK興産の会議室に向かいながら、そんなことを、考えた…
そんなことを、考え続けた…
つくづく、取締役が、似合わない…
非常勤とはいえ、取締役になって、初めて、臨時の取締役会議に出席するにも、かかわらず、そんなことを、考えるとは…
つくづく取締役の適性がない…
そんな女だと、思った…
そして、そんなことを、考えながら、送られてきた臨時の取締役会議の開催が、行われる会議室のドアを、開けた…
勝手知ったる、なんとやら…
この会議室は、これまで、何度も利用している…
嫌というほど、利用している…
私は、
「…失礼します…」
と、言って、会議室のドアを開けた…
そして、会議室の中を見た…
誰が、いるのか、見た…
最初に目に入ったのは、ナオキ…
藤原ナオキだった…
FK興産社長の藤原ナオキだった…
そして、次に目に入ったのは、伸明…
五井家当主の伸明だった…
これは、ある意味、驚きだった…
なぜなら、五井家の当主である諏訪野伸明が、五井グループが、FK興産を支援するとは、いえ、わざわざ、取締役会に出席するとは、思わなかったからだ…
なにしろ、FK興産は、従業員千人を擁するとはいえ、五井グループから、比べれば、吹けば、飛ぶようなチンケな会社…
そんなチンケな会社に、五井家の当主たる、伸明が、わざわざ、やって来るとは、思いもしなかった…
考えもしなかった…
当たり前のことだ…
規模で、言えば、五井の孫会社か、それ以下のチンケな会社…
そんなチンケな会社に、五井家の当主が、自ら、やって来るはずが、ない…
トヨタで、言えば、はるか、格下の孫会社か、その下の系列の会社に、社長や、会長が、出席するようなものだからだ…
だから、驚いた…
だから、ビックリした…
そして、さらに、驚いたのは、伸明の隣に、和子がいたことだ…
五井の女帝がいたことだ…
一体、なぜ、この場に、五井の女帝が、いるのか?
考えた…
まさか、父兄の授業参観ではないのだから、伸明の様子を見に来たわけでは、あるまい…
伸明は、頼りない…
だから、この取締役会に出席した…
そう、思った…
そう、考えた…
が、
それは、最初だけ…
最初だけだ…
四十を過ぎた大の大人の男の動静を見張るために、この会議に出席するとは、考えにくい…
当然、なにか、目的があるはずだ…
そして、さらに、驚いたのは、その隣に、マミさんがいたことだ…
伸明の妹であるが、血縁関係のない、妹のマミさんがいたことだ…
これは、一体、どういうことだ?
なぜ、マミさんまで、ここにいるのか?
考えた…
そして、率直に、それを、聞いた…
「…あの…なぜ、五井家の方たちが、ここにいらっしゃるんですか?…」
と、聞いた…
誰にともなく、聞いた…
独り言を呟くように、聞いた…
すると、ナオキが、
「…これから、臨時の取締役会を、するけれど、当社の規定では、必ずしも、取締役会に、取締役以外の人間が、出席しては、いけないと、いう規定は、ないよ…寿さん…」
と、あらたまった口調で、言う…
なにより、ナオキが、
「…寿さん…」
と、呼ぶのは、久しぶりだった…
ナオキが、私を呼ぶのは、いつも、
「…綾乃さん…」
だったからだ…
そして、それを、思ったとき、あらためて、この取締役会は、公的な場だと、思った…
私的な集いではない…
公式な場だと、あらためて、思った…
なにより、私自身、会社で、ナオキから、
「…綾乃さん…」
と、呼ばれると、
「…ここは、会社です…社長…寿と、呼んで下さい…」
と、いつも、言っていた…
ナオキは、私と二人きりになると、つい、気を許して、
「…綾乃さん…」
と、呼ぶ…
それを、私が、
「…社長…ここは、会社です…寿と呼んで下さい…」
と、言うのが、定番というか…
いつも、コントのようなやりとりを繰り返していた…
だから、正直、たとえ、会社でも、ナオキから、
「…寿さん…」
と、呼ばれるのは、違和感があった…
いや、
違和感があり過ぎた(苦笑)…
そして、同時に、ちょっぴり、寂しかった…
ナオキから、
「…寿さん…」
と、呼ばれるのは、寂しかった…
どうしても、そう呼ばれると、他人行儀に聞こえる…
この場で、
「…綾乃さん…」
と、呼ぶことは、できないと、わかっていても、寂しかった…
正直、矛盾するが、寂しかった…
そして、そんなことを、考えながら、あらためて、この会議室にいる、人間を、見た…
どんな人間が、この会議に出席しているか?
知るためだ…
五井家の面々が、3人…
そして、社長のナオキ…
私…
他に、4人…
そのうちの二人は、これまで、通り、FK興産の古参社員…
他の二人は、面識がない…
おそらく、銀行関連の取締役だろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そう思っていると、
「…寿さん…席について下さい…」
と、ナオキに言われた…
どこか、緊張した表情で、言われた…
私は、その言葉で、あらためて、ここは、取締役会だと、認識した…
顔なじみの面々が、多いので、驚くと同時に、どこか、緊張感がなくなった…
しかしながら、ナオキのその表情から、緊張感が、蘇ったというか…
当たり前だが、ここは、取締役会だと、認識した…
と、同時に、なぜか、マミさんが、席から、立ち上がり、会議室の全面の脇の方に、移動した…
そして、いきなり、マイクを握り、
「…これから、FK興産の臨時取締役会を開催します…」
と、宣言した…
そして、すぐに、
「…今日の議題ですが、まずは、最初に、取締役社長、藤原ナオキ氏の解任を決議します…」
と、宣言した…
<続く>
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