第10話 始めましょう、特訓を

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第10話 始めましょう、特訓を

 懐かしさを胸に眠った日の翌日、ステラは実に気分良く目覚めていた。  窓から顔を出して背伸びをするステラは、いつもと違った気分で朝日を浴びていた。  いつも通りのルーチンで朝の支度をしたステラは、すぐさまリューンの家へと向かう。 「おはようございます。さあ、リューン、今日も頑張りましょうね」 「はい、よろしくお願いします」  ステラがリューンの家に到着すると、リューンの方もすでに準備万端だった。 「ステラ様、リューンの事をよろしくお願いします」  リューンの両親は頭を下げてきていた。昨日の事を思えばずいぶんとくすぐったい展開である。  だけど、ステラは肩をすくめるようにして首を傾げると、 「はい、分かりました。リューンはしっかりとした一人前の冒険者に育ててみせますよ」  元気に返事をしていたのだった。  ―――  この日のステラはリューンを冒険者組合の前まで連れてきたかと思うと、どういうわけか建物には入ろうとしなかった。 「あれ、今日は組合には寄らないのですか?」  不思議に思ったリューンがステラに質問をする。 「はい。今日は既に依頼を受諾済みです。このまま街の外へと向かいますよ」  既に受けていると聞いて、リューンはびっくりしている。その一方で、どんな依頼を受けたのだろうかと期待に胸を膨らませていた。  だが、その期待も現場に到着すると一気にしぼんでしまった。  やって来たのは魔物の姿の見えないだだっ広い草原だったのだ。一体ここで何をするというのだろうか。 「ステラさん、今日は一体……?」  おそるおそる確認をするリューン。  するとステラはリューンへと顔を向けて依頼内容を明かす。 「薬草摘みです。この辺りは薬草が多く自生していますので、すぐに終わると思います」  それを聞いて両手をついて落ち込むリューン。どうやら薬草摘みに不満があるようだ。 「これまで魔物討伐をさせてきましたが、君はいまいち体力と集中力が足りません。なので、そちらを先に鍛える事にしました。薬草はじっくり見ないと探し出せませんからね。早く終われば走り込みをして基礎となる体力の向上を狙います」  リューンに対して淡々と説明するステラ。だが、リューンは両手を地面に着いたままである。 「早くこなせば、最後は私が直々に手合わせをしてあげる予定にしています。この近隣ではトップクラスの私と手合わせできるのですから、なかなかできない体験だと思いますよ」  ステラが説明をこう締めると、リューンの耳がぴくりと動いた気がした。 「それは本当ですか!」  顔を上げてキラキラと目を輝かせているリューン。予想外に食いついてきたものだから、さすがのステラも驚きを隠せなかった。 「ほ、本当ですよ。そのためには今から言う依頼内容を一人でこなしてもらいます。受諾者は私ですけれど、報酬はちゃんとお渡ししますから、しっかりとこなして下さいね」 「分かりました」  リューンの嬉しそうな姿に、尻尾を振る子犬の姿が重なってしまうステラである。  こうして薬草探しが始まった。  依頼内容は『薬草の葉50枚と解毒草の葉20枚』だった。どちらもそこらへんに生えている一般的な草ではあるものの、他の草と葉の形が似ているので正確に集めるには思いの外集中力が要る。  過去には解毒草の葉と間違えて毒草の葉が摘んでしまい、依頼を受けた冒険者が数日間腹痛に悩まされた事もあったという。  そういった事があり、この依頼を受けた冒険者には、必ず特徴が書かれた紙が手渡されるようになっている。 「覚えましたかね。解毒草と毒草は必ず気を付けて下さい。毒草は口に入れなければ素手で触っても大丈夫ですから、必ず葉っぱの裏側を見て下さい。葉っぱの筋が白ければ解毒草、赤ければ毒草ですからね」 「分かりました。気を付けます」  ステラが横につきながら、薬草採集の依頼をこなしていく。初めてという事もあり、特徴の書かれた紙を見て、ステラからアドバイスをもらいながら葉っぱを摘んでいく。  とはいえ、さすがはスライム討伐同様に初心者から受けられる依頼。あまり時間がかからずに終わる事ができたのだった。 「お疲れ様。これで一応50と20の数はクリアできましたよ」 「ふぅ、紛らわしいのが多くて大変ですね。特に毒草は困りました」  何度も紛らわしい草を摘んでしまい、リューンはずいぶんと神経をすり減らしていたようである。 「ですが、怪我をした時などのためにしっかりと見極められるようになっておくべきですよ。現地調達とかよくある事ですからね」 「覚えておきます」  ステラから冒険者の心得のような事を聞かされて、素直に頷くリューンであった。  その後、冒険者組合に戻って薬草を納品すると、今度は街の中をランニングである。街の通りを走り抜けて外へ出て、外周を1回半回って反対側から元の位置に戻ってくるというもの。  このランニングはステラは息を切らせる事なく走り切っていたが、リューンの方は少し厳しそうだった。 「やはり、基本的な体力がないようですね。これは毎日欠かさずに行って下さい。体力は冒険者の根本ですからね」 「わ、分かりました……」  両手を膝につきながら、どうにか返事をするリューンであった。  とはいえ、お昼を食べればようやく待望のステラとの手合わせである。それを楽しみに、ステラの後について食堂へと向かうリューンであった。
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