第13話 膨らむ謎

1/1
前へ
/135ページ
次へ

第13話 膨らむ謎

 夜も深まった頃、障害物もない場所に黒い影が集まってきている。 「はっ、あれを見ろよ。ちっこいの一人だけが見張ってやがるぞ」 「なんだあれ。盗ってくれっていてるも同然じゃねえか」 「これは楽に儲かりそうだな」  どうやら盗賊団のようだった。  抜き足差し足と取り囲むようにしながら静かに馬車へと近付いていく。  だが、ある程度距離を詰めた時の事だった。 「うわっ!」  唐突に仲間の悲鳴が響き渡る。  その声に驚いている間も、次々とうめき声や倒れる音がなどが響き渡る。 「どうした、おい。何があった」  リーダーらしき男が動揺していると、その首筋に光るものが当てられていた。 「動かないで下さい」  ちらりと振り向こうとすると、少女の声で話し掛けられる。その声に男はぴたりと動きを止める。  その声は落ち着いていて、なおかつとても冷たく感じられた。動けば殺される、男はそう感じたのだ。 「まったく、盗賊がいるとは思いませんでしたね。さて、おとなしく捕まるのと魔物の餌になるのと、どちらがよろしいですか?」 「捕まる、捕まります……」  盗賊はそう返事をすると、次の瞬間、まったく身動きが取れなくなってしまったのだった。  朝起きると、そこに広がっていた光景に商人たちは驚いていた。 「うわぁ、何なんですかこれは?!」  それも無理はない。全身を土でガッチガチに固められた男たちがずらっと並んでいたのだから。  その異様な光景の中、ステラは朝食を仕込んでいた。食欲をそそるいい香りが辺りを漂い、盗賊たちは思わずお腹を鳴らしていた。 「ああ、おはようございます。いい朝ですね」  仮面を着けたままのステラは陽気に挨拶をしている。  真横の光景とのギャップに、商人たちと遅れて起きてきたリューンが言葉を失って立ち尽くしている。  その視線の先に何があるかは分かっているが、ステラは非情にもそれをガン無視である。 「さて、とりあえず朝ごはんにしてしまいましょう。このままなら昼過ぎには到着できると思いますのでね」 「は、はあ……」  そこに何も居ないかのように話を進めるステラの態度に、商人たちはただただため息しか出なかった。 「エアロフロート」  朝食を終えたステラは、土の塊とかした盗賊たちを浮かせて運ぶ。大勢の男たちを土で固めたのはもちろん、それを浮かべて移動させるほどの魔法を見て、商人は度肝を抜かれる。  魔法の発想というよりも、それを可能にしている魔力量に驚いているのだ。 「ステラさん、そんなに魔法を使って大丈夫なんですか?」  商人が心配して確認してくる。それに対してステラはこてんと首を傾げていた。実に見た目相応の可愛らしい反応だった。 「まったく大丈夫ですよ。このくらいの魔法なら、丸一日使っていてもまったく問題ありません」 「それはすごい……」  ステラの答えに、どう反応していいのか困惑するばかりである。それは顔だけ動かせる盗賊たちも同じだった。 「化け物かよ、この嬢ちゃんは……」 「俺らに気付かれる事なくのしやがるし、こんな魔法を使って息ひとつ乱してないとか……、狙う相手を間違えたぜ」  青ざめる盗賊たちに、肩をすくめながら顔を向けるステラである。ただ、肝心の表情は仮面で見えなかったので、かえって盗賊たちに恐怖感を与える結果となってしまっていた。  とんでもない魔法を披露しているステラを、リューンはただ黙って見つめている。未熟とはいえども、ステラ一人に全部対応させてしまったのが悔しいのだ。冒険者を目指し始めて早ひと月。まだまだ未熟な事を思い知らされたリューンだった。 (やっぱりステラさんはすごい。僕も、あんな風になれるのだろうか)  ヴォワザンへ向かう最中も、リューンはずっとその事ばかりを考えていた。  そうこうしているうちに、ステラたちはヴォワザンの街に到着したのだった。  当然ながら、街の門番たちには思いっきり驚かれていた。土団子状態の男たちが10人くらいぷかぷかと浮いていれば、それはもう驚くなという方が無理だ。  その門番たちにステラは近付いていく。 「商人の護衛の依頼を受けてやって来ましたステラと申します。そこの男たちは夜中に襲い掛かってきた盗賊たちですので、警備隊に引き渡したく思います」  思わず顔を見合わせてしまう門番たち。しかし、現実に何とも言えない姿で捕まっている男たちが居るのだ。門番たちは慌てて対応する事になってしまった。  ステラたちは商人を無事に送り届けるという依頼の最中だったために、盗賊たちは門番に押し付けて街の中へと入っていった。 「ここがヴォワザンの街です。ここに来るのはどれくらいぶりでしょうかね」 「えっ」  ステラの言葉に思わずそんな声を漏らしてしまうリューンである。  なにせステラの見た目はリューンと大して年齢が変わらないくらいだ。だというのにとても久しぶりみたいな発言をされては困惑するというもの。  だけど、ステラはどうもそういうところに鈍いのか、気に掛けるどころか気付く事もなく淡々と依頼を遂行していった。  その後、冒険者組合に依頼完了の報告をするステラたち。そんな中、初めて別の街にやって来た喜びよりも、ステラを取り巻く謎が気になりすぎてしまうリューンなのであった。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加