第2話 初心者の少年

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第2話 初心者の少年

 ステラが冒険者組合に姿を見せるより前のこと。冒険者組合から一人の少年が元気よく飛び出していった。  見た目としては12~14歳くらいだろうか。ステラよりは年上に見える感じの少年である。腰にはショートソードがぶら下がっており、駆け出しの冒険者といった感じだった。  意気揚々とした表情を見る限り、おそらくは冒険者として初めて依頼を受けたという風に見える。  なぜならその目には、曇りがまったくない。冒険者を夢見た者なら、誰もがするであろう希望に満ちた瞳。  その瞳がすぐにでも絶望に染まるとは、この時誰が思っただろうか。  少年が出て行った冒険者組合ではというと、 「あの少年、一人で大丈夫なんでしょうかね。今回が初めての依頼でしょう?」 「近くで弱い魔物相手だし、大丈夫だろうよ。ただ、探し出すのは面倒だろうがな」  おっさんと職員が話している。やはりどこか適当なおっさんだったようだ。 「そんな調子でどうするんですか。何かあったら責任は取れるんですか?」 「何を言いやがる。そこまで含めても冒険者の責任だろ? 子どもったってそれが冒険者の決まりなんだからよ」  職員に怒られるおっさんだが、決まりだと言い張って聞きそうになかった。その態度に頭を押さえてため息の止まらない職員である。 「まったく、何もないといいのですけれどね」 「何もないだろ。この辺の魔物はあらかた狩られて最低限しか居ねえんだからよ」  心配そうに外を見る職員だが、おっさんはかなり楽観しているようだ。 「まあ、ステラさんのおかげですね。……そろそろ戻って来られるはずですから、しっかり対応お願いしますね」 「分かったよ」  おっさんに頼み事をした職員は、組合の奥へと引っ込んでいったのだった。おっさんもおっさんで、ステラの帰りを今か今かと座って待ち続けたのだった。  ―――  さて、少年に話を戻そう。  少年が受けた依頼はスライムの討伐。このバナル近郊に居るスライムはかなり弱い部類で、子どもの力でも楽に倒せるくらいだ。動きも遅いので、本当に倒すのが楽な魔物である。  ならば、なぜそのスライムが討伐対象になるのか。  それは、何でもかんでも取り込んで無限に増殖するため。放っておけばそこらじゅうがスライムであふれてしまうので、定期的に間引く必要があるのである。  少年は、そのための依頼を引き受けたのだ。初めてでもこなせる依頼という事で、少年はかなりやる気にあふれていた。  依頼をこなすために少年がやって来たのは、バナル近郊にあるこの平原では珍しい森だった。  なぜこの森にやって来たのか。プレヌ王国に生息するスライムは基本的に弱い。だから、スライムたちは身を潜めるように隠れ住んでいるのである。森というのは絶好の地形なのである。 「確か、依頼はスライムの核10個だったよな。よーし、頑張るぞ!」  少年は意気込んで森の中へと入っていった。  国土のほとんどを平原で占めるプレヌ王国にある珍しい森。木々が生い茂っており、昼間でも少々暗いものの、そこまでといった感じの場所だった。  少年は一応警戒しながら森の中を進んでいく。 「ピギッ!」  森の中から妙な声が聞こえてくる。  これがスライムの鳴き声である。人の気配に気が付いたスライムが、大慌てで逃げているのである。 「逃がさないぞ~」  声を聞いた少年は、聞こえてくる音を追ってスライムを追いかけていく。  いくらスライムは足音がしないとはいっても、木や草に当たればその時に音を出す。少年はそれを頼りに追いかけているのだ。  それにしても、初めての依頼とは思えないような動きをする少年である。  気が付けば、逃げていたスライムを追い詰めていた。 「ピ、ピィ……」  小さく鳴くスライム。まるで命乞いでもしているかのような弱々しい声だった。 「怖いかい? でも、ごめんよ。これも冒険者になるためなんだ」  少年は躊躇なくスライムに向けて、持っていたショートソードを抜いて振り下ろす。  その瞬間だった。 「ワオーーンッ!!」  突如としてウルフの遠吠えが響き渡る。  その声に驚いたスライムは、少年の動きが止まったために、無傷のまま慌ててその場から逃げ出した。 「な、何だ、今のは?」  少年の表情が急に険しくなる。  ガサッという音がしたかと思えば、そこには見た事のない灰色のウルフが居るではないか。 「ひぃっ!」  スライムを追い詰めたところから一転、少年は狩られる側へと立場が変わってしまったのである。 「うわあっ!!」  少年は剣を持ったまま走って逃げる。すると、ウルフはそれに反応して追いかけ始める。  少年の足とウルフの足では、その結果は明らかだ。  だが、ウルフはどういうわけかすぐには追いつこうとはせず、少年の先回りをして翻弄し始めた。まるで、スライムを追い回していた少年を同じ目に遭わせるようにである。  逃げ回っていた少年は、石に蹴躓いて地面に倒れてしまう。 「グルルルル……」 「く、来るなぁっ!」 「グワアアッ!!」  少年が剣を振り回してウルフを牽制するが、お前が言わんばかりにウルフは動けない少年目がけて飛び掛かる。  ところが、さっさと攻撃をしなかったのが徒となる。 「そこまでです!」  いくつもの剣筋がウルフを切り刻んだのだった。
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