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葬式
母が死んだ。
本当にあっけなく死んだわ。
トントン拍子で葬式やわ。
こういう時に限って、知らん奴がぎょうさん来るから、正直迷惑や。あんたらの関係とか知らんし、第一うちには関係あらへんし。
「・・・ここにおったんか。」
「・・・なんや。お前も来とったんか。」
隣ん家のリョータが隣に座る。
「本当にあっという間やったなぁ」
「せや。ぽっくりいってもうたわ。」
「ええんか?近う行かんくて」
「行く必要ないて。」
黒で固められた世界を一瞥する。もう、早く終わってほしいわ。こんなん。
「お母ちゃんのこと 好きやったやろ?」
「別に。好きであいつの子になったわけやない。」
「相変わらずキツイなぁ。」
「生まれつきやで。」
母・・・あいつはろくでもない奴だった。
まずめっちゃ自分勝手。うちの気持ちなんか考えせずに趣味悪いものばっか用意しやがって。『あんた これから寒うなるんにそんな格好じゃ風邪ひくで』って、余計なお世話や。そんなフリフリドレス着たら近所の笑いものやで。満足してるのは親だけで子どもは気の毒なんやで。分かっとんのか。
そのくせ虫の居所悪いときにはシカトやし。たまに食事も出してくれんくて、ばーちゃんとこ行って食わせてもらうてたわ。ばーちゃん「ごめんなぁ」って言いながら食わせてくれてたけど、ほんまや。あんたんとこの娘どうなっとるんや。虐待やで。
「そんなこと言うてずっといたやん。」
「他に行く場所なかっただけやで。家出したらぶっ飛ばされると思うし。」
「そんなもんか?」
「あんたには分からんやろ。」
実際、家の中での生活に嫌気が差して夜の街に繰り出した事がある。初めての場所・初めての時間・・・若気の至りってやつで興奮して朝まで過ごして、帰ったらアイツに激昂されたわ。「そういう時もあるんだから・・・」って周りになだめられても、アイツは今までにない怒り方してた。
こんな時だけ母親ヅラすんなや、ウザいって、数日はお互い口聞かなかったわ。
和室では、知らん奴らの嗚咽が聞こえる。こんな奴のためによう泣けるな。偽善にも程があるわ。
「・・・悲しい?」
うちの顔色伺うように、リョータが聞いてくる。
「なんでや。泣けへんて。」
「でも・・・」
「子どもが親の前に死ぬんが一番親不孝やって知らんの?アイツはうちの先に死んだんや・・・」
恨みつらみはスラスラ出てくるはずやった。
出てくるはずやったのに・・・おかしいな。
「一度でも顔見とってやったら?娘の義務ってやつやで。」
言い残して、リョータは去ってしまった。
背中から、木魚の音が聞こえる。
重たい体を翻して、うちはアイツに近づいた。
おい。何気持ちよさそうに寝てんねや。
こんな豪勢な華に囲まれて。なんぼしたんや。
最後の最後までホントにムカつくわ。
何で言うてくれなかったんや。
もう長くないって。
そない体でうちのこと引き取ったんか。
身の丈知れや。
他人様の面倒見てる場合ちゃうかったやろ。
うちが何も知らんとでも思ったか。
「まだ若いのに・・・」
「かわいそうに・・・」
「何で・・・」
何で?うちが聞きたいわ。分かるわけないやろ。
なぁ
なにうちより早う死んでんねん。アホか。
まだアンタに言いたいことぎょうさんあんねん。
好き勝手しといて勝手にいなくなんなや。
泣けへんねん。うち。
そんなことされても泣けへんねん。
リョータは隣で黙っている。なにしょんぼりしてんねん。お前らしくないな。
「最後に、お母ちゃんの顔見てやってね。」
ばーちゃんが泣きはらした顔でうちを抱きかかえた。
クゥーン・・・・
・・・ほらな。
情けない声や。
情けなすぎて・・・
ほんま・・・泣けへんのや うち
悲しくても
泣けへんのや・・・・・・
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