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世界一の金持ちになる方法
駅前の捨て看板に、
〈世界一の金持ちになる方法〉
と銘打たれてあった。
通りがかる人々は興味をそそられた。
指定された日時・場所に人々は三々五々集まる。そこは区の公会堂だった。
聴講料は一万円。少し高いが、世界一の金持ちになる方法を知れる料金とすれば格安も格安だ。
時間が来た。人々は息を飲んだ。
一人の年配の男性が壇上に上がった。
そして、とうとうと自分の人生、および自分の人生観について気持ちよさそうに語る。
大して面白くもない話。
人々が退屈し、あくびが出始める頃、男は大声で言った。
「ではいよいよです。本題。世界一の金持ちになる方法を伝授します」
人々は目を覚ました。ひと言も聞き漏らすまいと耳をそばだてる。一万円も払ったんだ。全身を緊張させ集中する。
男はこほん、と咳払いひとつ。そして切り出した。
「世界一の金持ちになる方法。それは……」
それは?
「世界一金を稼げばいい、それだけです」
しーん。
水を打ったように静まり返る場内。
殺気が、辺りを支配した。
「あ。はは。ははは。ほんの冗談ですよ。ジョーク。ジョークジョーク。嫌だなあ。日本人にはジョークのひとつも通じない。ーー受けませんでしたか?」
男がひきつり笑いをみせながらそう言うと、聴衆の一人が立ち上がり、わき上がる猛烈な感情を抑えながら静かに言った。
「只今、世界一リンチされそうな人は知っていますか?私とこの会場の客は、全員知っているのですがーー」
たじろぐ男。
醜く顔を歪ませながら彼は答えた。
「せ、せ、世界一、この公会堂から逃げ出したい人物なら知ってます」
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