プロローグ

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プロローグ

「…わが大英帝国が総力を挙げて建設したナイル上流のスチーム・カタパルトも、今や砂礫に覆われるばかりとなっている。今よりちょうど100年前、そう!フランス革命400年を記念して、フロッグ(=フランス人)共があの垂直鉄道を開業して以来、我々は宇宙開発に大幅な遅れを取ることとなったのだ。だが、この屈辱に塗れた100年間も、もうおしまいだ。我々BBDの手によって、あのバベルの塔は間もなく崩壊する。そしてその時こそ、再び大英帝国の美しき夜明け(British Beautiful Dawn)が到来するのだ。同志たちよ、偉大なる大英帝国のために、命を捧げる覚悟は出来ているかね?」  30代前半ほどの眼光が鋭い、おそらくは、ごく最近まで軍で修羅場を掻い潜ってきたであろう男が宣う。 「ふむ…。フロッグ連中が我々の誇るスチーム・カタパルトを利用して、あの忌々しい宇宙駅と垂直鉄道を建造し、宇宙大国にのし上がったことは、わが大英帝国史上最大の失点だった。あの時に『宇宙関税法』が議会で可決されていたならば、我らが大英帝国は今なお宇宙開発でフランスに優位を執っていたはずなのに…」  20代半ばほどの青年が忌々しげな表情を浮かべて宣う。 「わしもあと少し若ければ、お前さん方の手足となって工作を行っておったはずじゃが、もうすっかり老いぼれじゃ。リーダーの足手まといにならねばよいがのう…」  年齢が70歳をとうに過ぎているだろう老人が宣う。 「いや、爺さん、今回の『天空の鉄槌』作戦は極めて単純だが効果も高い。そしてあんたも永いこと大英帝国王立宇宙軍特殊部隊に所属していたから、肉体はそう簡単には衰えていないだろう」  と、先ほどの30代前半ほどの男。彼は、組織の首魁を務めると思われる。 「僕はBBDの新参者だから多分顔は割れていないと思うけど、この作戦が成功して一生お尋ね者になっても後悔はしないよ!」  と、あどけない顔の少年が宣う。 「いや、たとえ作戦が成功したとしても、どのみち我々は死ぬのだよ。お前さん、偉大なる大英帝国のために、命を捨てる覚悟は出来ているかね?」 「もちろんさ!」  首魁は少年に対して思想に殉じる覚悟が出来ているか否かを訊ねたが、どうやら彼にはその覚悟が出来ているらしい。 「あたしも偉大なる大英帝国のためなら、何時だって命を投げ出すよ!自分が大英帝国のために殉じるなら、偉大なるブリテンの女王・ヴィクトリア8世陛下だってお喜びになるはずだからね!」  と、先ほどの少年と同い年か、年下に見える少女が宣う。 「それは良い心構えだ。キミたちのような少年少女がいる限り、我らが女王・ヴィクトリア8世陛下の御代は、何時までも安泰だろう」首魁らしき男は満足げにうなずき、そして彼ら彼女らの合言葉とする言葉を促す。「それでは諸君、既に準備は万端だ。では何時ものように、この言葉で本日の会合を締めくくろう!女王陛下バンザイ!!」 「「「「大英帝国に栄光あれ!!!!」」」」 「女王陛下バンザイ!!」 「「「「大英帝国に栄光あれ!!!!」」」」 「女王陛下バンザイ!!」 「「「「大英帝国に栄光あれ!!!!」」」」  ここは南アメリカ大陸の仏領ギアナ。この地のコミューン(基礎自治体)のひとつ・クールーは、宇宙駅まで伸びる垂直鉄道の地上側の駅を有している。  そのクールーの、とある防音設備の利いたホテルの一室にて、ある恐ろしい謀略が進められようとしていた…。
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