第一章(第一視点)

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第一章(第一視点)

「着いたぞ」  嫌いな父の顔がのぞく、父が私の顔を見て優しく声をかけた。 「おぉ、顔色よくなったじゃないか」  確かに、だるさは無くなり軽くなった気がするが、父には何も言わなっかった。  そのまま車から降りて、山道へ向かっ。山道は、あの焼けた日からは変わり、新しく整備されたようで、きれいだった。  山道を登り終えると、一人の男の子が母のなくなった気の前で、立っているのが見えた。  私たちも、その男の子の隣で黙祷をささげる。少し気がしんどかったが、無事に来ることができた。  それから、父に少し風に当たっていかないかと、誘われたので「好きにすれば」とだけ返した。  私も、少し穏やかな風に心を落ち着かせようとベンチに腰を掛ける。  すると、先ほどの木の前に立っていた男の子が、焼蝶が描かれた本を見るなり声をかけてきた。 「その蝶、見た蝶に似てる」  その言葉を聞いた瞬間、私は固まった。それが聞き間違いではないかと瞬時に聞き返す。 「あなたは、この蝶のことを知ってるの?」 「うん。僕はそいつに助けられたんだ。」  私は体を前のめりにさせ、目を見開いて行った。 「もっと聞かせてくれない?」  そうすると、男の子は「いいよ」と、蝶について話をし始めてくれた。あまりに不思議な話だったが、その話をする男の子の目に偽りの文字はなかった。  そして、話が終えると、次に男の子が、「その本には、何が書いてあるの?」と、聞いてきたので、この本に語られている焼蝶について話した。  すると、男の子は腰を曲げて、肩を内のほうに沈ませて縮こまった様子で言った。 「ごめん、今の話を聞いてたら、この山火事で死んでしまった人への申し訳なさが悔やんでも、悔やみきれなくなってきちゃって」  少し、目に潤いを持たせながら加えてこう質問してきた。 「その恩人ともいえる人に、申し訳ないなんて言ったらだめかな?」  私はその鋭い質問に黙ってしまった。母が何と言うか考えるだけなのに――。  そんな私に少し戸惑ったのか、焦ったのか一言謝りを入れてきた。 「ごめん、こんなこと急に言われたってわからないし、困るよね。ごめん。」  私は母のことでしんどく思っただけだったこと、白十に行ったほうがいいのかな。別に他人だし言わなくてもいいかな。でも、今、共有できることが私にとっていいような気がする。この直感が、とても大切なように思えて、話すことに決めた。 「あのね、亡くなったその恩人って私の母のことなの」  その時、私の中のしんどかったものが、少し落ち着いた気がした。  それと同時に、男の子のほうは顔を深く下げて、その潤った目を見せないように言った。 「ごめん、本当にごめん…」 「私こそごめんね。それと、ありがとう」  男の子は私のありがとうの心情を読み取れずただ「え?」と、つぶやききょとんとしていた。  こうして、一通り話し終わったときに父が「蜜花~」と大きな声で呼びながら歩いてきた。  すると、さっきまでの男の子と話していたところを見ていたらしく「この子は?」と聞いてきたが、そういえば名前を聞いていなかったなと思っていると。 「名前言ってなかったですね。僕の名前は古崎 白十と言います。」 「あぁ、ごめんなさい。私の名前は、木名瀬 蜜花と言います。」  私たちは父の一言を元に名前だけの簡単な自己紹介を終えた。  そうすると、父は興味津々には白十に近づいて行った。父は、娘の彼氏に聞くように質問責めをし始めた。  そして質問を終えたのがちょうど一時間ぐらいだった。二人の間に質問は飛び交ってはいなかったが、かなり打ち明けたようで笑い話も時には聞こえてきていた。  それから、私たちは少し経ったのち、その場を後にして山道を下った。道の分かれるところで、白十とは別れた。その時は、「また会おうね」とだけ言っておいた。  駐車場まで戻ってくると辺りは真っ赤に染まっていた。あのひを思い出させるように染まっていた。でも、いつものようなしんどさは無かった。私たちはその山にも別れを告げ車に乗り込んだ。  その時に言われたことなのだが、父はあの時白十と連絡先を交換していたらしく、白十とともに山へキャンプに行かないかと話を進めていたらしい。父は、どうだ、行ってみないか。白十くんもいるし安心だろうと言われた。  私は父と二人でなければそれでいいと了承した。でも、本当は行きたくなかった。母のことを思い出すようなことはしたくなかった。しんどさがなくなったからと言って。その時は、声も涙も感情すら湧かなかった。自分が分からなくなっていた。
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